10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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ナノマシンは難治性のがん治療にも有効に作用する

ナノテクノロジーで創る体内病院(2)難治性のがん治療

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
東京大学政策ビジョン研究センター特任教授でナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏が最も力を入れているのは、難治性のがん治療だ。ナノマシンは、従来ならば薬剤が効きにくい薬剤耐性がんにも有効に作用する。それはいわば、ナノスケールの「トロイの木馬」であり、効果を検証する実験でも、ナノマシンでがんの増殖が抑制できることが確認されている。(全5話中第2話)
時間:09:57
収録日:2016/10/24
追加日:2017/03/01
≪全文≫

●ナノマシンで難治性のがんを治療する


 ミセル型のナノマシンを使って、何を治療するのか。今われわれが一番力を入れているのは、「現存の方法では治療が困難な難治がんを治す」ことです。普通、がんというと、大腸がんや胃がんなどの部位で分けますが、ここでいう「非常に治りにくいがん」は4つのカテゴリーに分けられます。1つは転移がんです。がんで命を落とす最大の理由は、転移です。転移しなかったら、がんでは死なないのです。2番目は、薬剤耐性がんといいます。がんも、長く薬を使っていると耐性を持ってしまいます。そうすると、手の施しようがなくなります。また、がんの中には、もともと非常に薬が到達しにくいものがあります。例えば脳腫瘍や膵臓がんです。

 最近注目されているのは、がんの幹細胞です。幹細胞というと、iPS細胞もそうですが、普通はわれわれの体にとって、なくてはならないものというイメージがあります。しかし実は、がんにも幹細胞があることが、最近の研究で分かってきました。これは治療抵抗性が非常に高いため、本質的に薬剤耐性です。そのため、なかなかこれを治すことはできません。この4つを何とかしてあげることで、がんの治癒率を上げることができるだろうということです。


●薬剤耐性がんの治療に挑む


 例えば薬剤耐性がんに対して、高分子ミセル型ナノマシンでどうやって攻撃していくかをお話しします。先ほどからお話ししているように、このマシンは血中をぐるぐるステルスしながら回りますが、ただ回っているだけではがんに到達しません。そこで、どうやってがんに行くのか。これを動画で確認したいと思います。

 まず血管です。普通の血管には、すごく小さい穴があります。小さい抗がん剤はそこを抜けていってしまいます。だから正常な組織にも到達してしまい、さまざまな副作用を引き起こします。それに対して、高分子ミセルはウィルスサイズです。だから正常な血管は通らないため、その穴から抜けません。ここで正常な組織は、素通りしていきますが、がんの血管はいわば隙間が非常に大きい(正常な血管に比べて穴が大きい)ので、この隙間を利用してウィルスサイズのミセルは血管からがんの組織の中に移行します。

 こうやって、がんにマシンが集まります。しかも単に集まるだけではありません。この一個一個のがん細胞へも入り方が違います。がん細胞に行くと、細胞の膜に包まれて細胞の中に入ります。この膜に包まれたものを、エンドソームといいます。これは人間の胃袋と同じです。人間の胃袋は、酸性なので、それと同じように、細胞もエンドソームに入ってきたものを消化してしまおうとして、酸性になります。

 われわれの高分子ミセルは、酸性になると薬が出るような仕掛けになっています。そこから細胞に取り込まれ、核が一番の敵の本陣なわけですから、そこにだんだんと近づいていき、エンドソームの中のpH(ペーハー)が下がると、薬が出てきます。昔ギリシャのお話で「トロイの木馬」がありましたが、これがいってみればナノスケールのトロイの木馬なのです。


●ナノサイズの「トロイの木馬」を送り込む


 これを、もう一回分かりやすくお話をしたいと思います。例えば、抗がん剤が兵隊さんだとすると、この兵隊さんがこの壁を乗り越えて細胞の中に入ってきます。その中で、実はこの抗がん剤をやっつけてしまうものが待ち構えています。解毒タンパク質というものが待ち構えていて、皆捕まえて解毒してしまいます。ですから、敵の本陣である核に到達す...
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