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人工知能によって10年後の社会はどうなるのか?

AIがもたらす社会・企業変革(2)AIが変える10年後の社会

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長
情報・テキスト
東京大学第28代総長で三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏、東京大学大学院工学系研究科特任准教授・松尾豊氏、パナソニック先端研究本部知能化モビリティプロジェクト室総括部長・岩崎正宏氏の3氏による鼎談一つ目のテーマは、AIがもたらす10年後の社会だ。3氏の議論から見えてくるポイントは、早急にAIの開発研究とビジネスが循環する投資の仕組みを作る必要性だ。欧米とは異なる成長のシナリオを描くことが、10年後の姿を決するだろう。(2016年11月30日開催三菱総研フォーラム2016鼎談「AIがもたらす社会・企業変革」より、全4話中第2話)
≪全文≫

●AIに期待してはいけないこととは何か


司会:それでは、鼎談を始めます。今日はおよそ30分という限られた時間ですので、テーマを二つに絞りました。最初のテーマは、「AIによって10年後の社会は、どうなっているのか」です。この点について語り合っていただきたいと思います。まずは小宮山理事長に、口火を切っていただきたいと思います。

小宮山:松尾先生が、今日の講演の最初(『AIで社会・ビジネスはどう変わる?』シリーズ参照)で、「過剰な期待は禁物である。AIにはできることとできないことがある」と言いました。松尾さんの口からネガティブな話が出たのを、私は初めて聞きました。

 今日の話の中(松尾氏の講演)で私が一番好きなのは、AIによって「目」のついた機械ができたというところです。これは、カンブリア期における生物の爆発的な進化に匹敵します。脳に目がついたことで脳が進化し、体も大きくなるなどさまざまに進化していき、いろいろな種が生まれたということだと思います。AIの場合、目と脳をつなげたのがディープラーニングであり、体に相当する部分に、日本が得意とする機械やロボット、あるいは自動車といったものをつけていきます。松尾先生は講演の最後の方で、できる例をいろいろと挙げました。介護もできるし、防犯もできるという話がありました。では、できないこととは何か、また過剰な期待とは何なのか。この点を少し伺ってみたいと思います。

松尾:基本的に機械でも「認識」ができるようになるので、人間が見て分かるものは、機械にも分かるようになるはずです。ただその認識でも、できることとできないことがあると思っています。

 例えばプロ野球で、ある場面を見て、ヒット性の当たりをショートが横っ飛びで取ってアウトにしたとします。これがファインプレーであることは、人間ならば分かりますが、これを機械にファインプレーだと認識させるには、前提として「通常ならばセーフになります」ということを予測できていないといけません。これは、高次の認知を必要とするような認識タスクになるのです。こういうものは難しいと思います。

 つまり、画像を見て、その中の情報だけで「良い・悪い」を判断できるものはいいのですが、その画像の外にあるいろいろな情報と組み合わせて判断しないといけないようなものは難しいと思います。

 そのため、比較的シンプルなもの、例えば自然物を扱うようなタスクはやりやすいのですが、ではAIに設計ができるのか。これは非常に難しいと思っています。例えば、図面のパターンを読み取って、それと同じように描くだけであれば簡単なのですが、建物でも何でも設計の業務では、建物が満たすべき仕様もあれば、クライアントの性格やビルの建設理由など、さまざまなことを総合的に考えないといけません。こういうことは、ディープラーニングが進化しても相当難しい。この辺はできないと思った方がいいと思います。

小宮山:分かりました。


●AI研究の分野で日本は「もう勝てない」


司会:10年後の世界を予測する場合、最初に提示された視点は「できること・できないこと」というものでした。次の視点は、先のお二人の講演でも触れられていたように、日本は若干遅れを取っている分野もあるということです。この領域で日本は進んでいるとは、完全には言い切れない。こういった点が、お二人の話の中にありました。今、日本だけで十分なビジネスや事業展開ができる環境ではなくなってきている中、日本の競争力という観点から見て、AIはどのような位置付けになるのかをお聞かせいただきたいと思います。松尾先生は、研究という観点から見て、その点をどうお考えでしょうか。

松尾:AIの研究そのものは、率直に言って「もう勝てない」という感じです。グーグルやフェイスブックは、莫大な金額を使って人を集めており、グーグルの年間研究開発費は1兆円を超えています。日本政府が「一生懸命、人工知能の研究をやるぞ」と言っても、年間に出される研究予算は30億円です。こうなると、もう全然話になっていません。

 なぜそんなことが起こるかといえば、結局グーグルは、検索連動型広告というお金を生み出す装置を裏に持っているからです。人工知能の性能を上げれば、ますますお金が入る仕組みがあるのです。インセンティブの設計を上手につくってしまったので、こんなことが可能なのです。

 それと同じことをやるには、日本の製造業が、このディープラーニングを使って付加価値を生んで儲かるという状況をつくった上で、もうけた分を技術に再投資するというサイクルを形成して、初めて同じ土俵に立てると思っています。その意味で、今の状況では、研究はかなり厳しい状況だと思ってい...
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