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中東問題でロシアが放つ最後のワイルドカードとは

中東和平とロシア・トルコ・イラン(2)ワイルドカード

山内昌之
東京大学名誉教授
概要・テキスト
アサド政権の存立をめぐって対立するトルコとイランは今後どうなるのか。そして、中東問題においてまだ誰も使っていない「ワイルドカード」とは。歴史学者・山内昌之氏が、ロシア・トルコ・イランの協力関係と中東和平の今後の展望を語る。(全2話中第2話)
時間:13:02
収録日:2017/02/09
追加日:2017/03/12
カテゴリー:
≪全文≫

●中東停戦へのレバレッジはトルコ、政治解決のキーはイラン


 前回に引き続き、シリア問題をめぐるロシア・トルコ・イランの動きについて触れてみたいと思います。

 シリアにおける停戦、つまり内容が何であれ、ともかく地上から戦火がなくなることを停戦と意味すれば、その停戦を実現しようとしているのは、現実にはロシアです。停戦とはもう少し言い換えれば紛争の凍結であり、その紛争の凍結や停戦のカギになるのは、トルコです。

 トルコは今、反アサド武装勢力に援助をしており、地上軍を投入している国です。よって、トルコが、地上軍の作戦をコントロールし、かつ武装勢力に和平への協力に同意させるためのレバレッジ(テコ)になるということです。

 これは、トルコとロシアがなぜ協力しているのかという現在の経緯をアメリカなどに対して説明する上で重要な「正当化の論理」になっています。

 しかし、停戦や紛争の凍結の後にくるのは、紛争の政治的な解決(Political solution)です。その段階においてカギになるのは、今度はトルコではなくイランに他なりません。イラン・イスラム共和国こそ、アサド政権とその国内の治安維持兵力を支援し、シリアの運命を実際に握っている当事国であるからです。


●トルコは、ロシアのイランに対する牽制カード


 トルコは、前回お話ししましたが、アメリカや国連がかつてそうであったように、ロシアがその停戦を達成した後、このロシア優位のゲームから追い出されるのでしょうか。それとも、トルコはそれほどヤワではないのでしょうか。

 これはなかなか難しい問題です。ウラジーミル・プーチン氏がシリアのコントロールのはしごを登っていく、つまりシリアのコントロールを強めていくにつれて、トルコの関与度合いやその存在感の必要性の度合いが決まってくるのだろうと思います。

 しかし、トルコの存在感がすぐにはなくなるとは思えません。なぜかというと、ロシアにとってトルコは大きなカードになるからです。時にはロシアの意思を無視(もしくは素知らぬ顔を)して、自らのシリア政策を追求し通そうとするイランに対する牽制の大きなカードになるのがトルコだからです。

 現実にイランは、ロシアとトルコの協力関係に満足していません。イランは、無条件の、絶対的な、妥協なきアサド政権の勝利、そして明快なアサド政権の存続を望んでいます。...
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