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厚生労働省が推進する「働き方改革」が難しい理由とは?

「働き方改革」の課題と展望(1)なぜ改革が必要なのか

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
少子高齢化と技術革新の両方が、かつてない速度で進みつつある現在、これまでとは違う新たな働き方が求められている。厚生労働省による「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会事務局長である東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏が、これからの「働き方改革」が抱える課題と、目指すべき展望を語った。(全6話中第1話)
時間:06:56
収録日:2017/02/21
追加日:2017/03/16
≪全文≫

●「働き方改革」が必要とされる二つの理由


 今日は「働き方改革」をテーマに、私が考えていること、あるいは私が今、携わっている研究等について、お話ししようと思います。

 日本では、現在「働き方改革」が非常に大きな課題になっています。政府でも会議が開かれ、政策的な議論も大きく進んでいます。こういう議論が大きく進んでいる背後には、大きくいって二つの理由、つまり国内的な理由と世界的な理由があるのではないかと思います。

 国内的な理由として、(一つは)日本の経済全体がそれほど大きく成長していないことが挙げられます。人口が減っていく中で、日本経済が大きなプレゼンスを引き続き維持するためには、一人一人がより良い形で働き、生産性を上げていくことが大きな課題になります。

 もう一つは、所得格差、あるいは貧困の問題です。やはりこうしたことが社会的にも大きな課題になりつつあります。格差や貧困があるために、経済が活力を削がれるという面もあります。また、大きな所得格差があり、貧困にあえぐような人が出てくることは、そもそも社会的に問題です。こういう課題を解決し、それぞれの人がより良い形で働いて、より多くの所得を得て、より充実した働き方ができるようにしなければいけません。

 国内的には、経済成長と所得格差という二つが、働き方に関して大きな議論を呼ぶ理由なのだと思います。


●「働き方改革」はグローバルな課題だ


 これらはかなり日本的な理由ですが、世界的に見ても、やはり同じような課題を抱えている国は多く、世界中で働き方が大きな問題になっていると思います。その大きな原因の一つは、技術革新が世界的に大きく進んでいることです。当然、日本も同じですが、世界的に大きな技術革新が巻き起こっています。特に最近では、AIや人工知能という言葉をマスコミで聞かない日はないぐらいになっています。人工知能やそれに関連したコンピューター、ロボットの発達、さらにIoT(モノのインターネット)と呼ばれる情報通信技術の発達などが、企業経営の在り方、さらには産業全体の構造を大きく変えていくだろうと言われています。そういう中で、それぞれの人がどういう形できちんと働けるようにするのか。これが、日本だけではなく世界的にも大きな課題になっていると思います。

 世界的に注目されるもう一つの理由は、日本にも共通しています。先ほど国内問題としての部分でも申し上げた通り、世界的にもやはり大きな所得格差、失業、貧困といった問題が生じていることです。こういう問題を解決するためにも、新しい働き方を考えないといけません。こうして、世界的にも働き方改革が大きな課題になっていると思います。

 世界全体、あるいは国内全体の課題を考えると、今までと同じような働き方をしていたのでは、十分な生産性や企業業績が挙げられないのではないか、それぞれの人が充実した働き方を送ることなどできないのではないか、といった問いが見えてきます。これが、いろいろな改革が議論されてきている理由だと思います。


●なぜ「働き方改革」は困難なのか


 この働き方の改革は、かなり難しいと思っています。なぜ難しいのか。一人一人がきちんとした働き方ができる、安心して働ける、これが生活の基盤です。そのため、その生活の基盤が脅かされるといった心配や不安がある改革は、なかなか進みません。大きく変えてみて、うまくいかなかったらまた戻すとか、あるいは短期的にとはいえ失業率をすごく高めてしまうような改革は、なかなか実現しにくいため、慎重な対応していかなければいけません。

 他方で、先ほど申し上げたような、世界と日本を取り巻く技術環境の変化には、非常に激しいものがあり、スピードが速いという問題があります。悠長に変えていったのでは、なかなか変化に追い付いていけないこともあります。そのスピード感にどういう形で付いていくかが、難しい課題として横たわっています。

 そこで私は、働き方改革の話は、短期的な課題と中長期的な課題とに分けて考えた方がいいのではないかと思っています。現在の政府内にある「働き方改革実現会議」等で議論されている政策パッケージや改革のプランはかなり短期的な対策である側面が大きい、というのが私の認識です。私もそこに多少は関わっていますが、これはこれで重要なものだと思います。

 しかしすでに述べたように、短期的な話だけでは物事は解決しませんので、中長期的な改革プランも併せて考えていかなければいけません。先ほどのように難しい改革を進めていくための重要なステップとして、分けて考えることが必要になると思います。
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