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「働き方改革」の社会的背景と進むべき企業の方向性

「働き方改革」を二つの視点から考える

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長
情報・テキスト
人類は長い間農業に従事してきたが、その後、機械に合わせて働く時代を経て、ようやく働き方の自由を考える余裕を得た、と東京大学第28代総長で株式会社三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏は言う。しかし、現在は少子高齢化を主な要因として、働き方そのものに対する考え方を変える必要性が生じてきた。では今後、企業はどうあるべきなのか。小宮山氏が、近年、働き方改革が議論されるようになった社会的背景と、それを踏まえた上で進むべき企業の方向性について語る。
時間:12:52
収録日:2017/02/21
追加日:2017/03/20
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≪全文≫

●働き方改革について議論する二つの理由


 今、「働き方改革」が市場でも国でも非常に大きな話題になっているわけですが、なぜ今、働き方改革ということがこれだけいわれるようになったのか。その理由は二つあると私は思っています。

 一つは、働き方について議論することができる余裕が、人間の社会に生まれてきたということです。もう一つは、このままの働き方でやっていくと社会がもたないということで、働き方を改革する必要が今、生まれたということです。この2つの理由があるのではないかと思っています。


●農作物の成長に合わせて働いていた時代


 少し説明をさせていただきます。人類の長い歴史の中でつい100年ほど前までは、多くの人が飢えていました。江戸時代の終わりになっても90パーセント以上が農民で、どこの国もそうでした。ただ、農業に従事していない人も少しいたわけですから、農民は自分たちが食べるのに必要な量の他に、そういう人たちも食べられるだけの量も作っていたわけです。

 この時の働き方はどういうものかというと、結局は農作物が成長するのに合わせて働く以外になかったのです。だから、朝、稲の見回りをしなければならないし、いもち病のような稲の病気になっていないかどうかを見回る時間も必要です。季節にしても、田植えは種から芽が出て苗が伸びてくる時期が決まっているため、苗代を作ったり、水を引いたりするのは、そうした時期に行う以外になく、選択の余地がなかったのです。ですから、「働き方」を議論する余地はありませんでした。農作物が育つのに合わせて働いて飢えをしのぐ、ということだったわけです。


●工業化で機械に合わせて働く時代へ


 それが、明治時代あたりから工業化社会に入っていきます。この時は、機械に合わせて働いていました。昔、労働者は大変に悲惨な生活を送っていて、これは世界中で同じでした。日本でいえば、『あゝ野麦峠』や『女工哀史』などに書かれているような世界です。今では群馬県の富岡製糸場が世界遺産になっていますが、そこはもちろん日本の工業化時代を支えた工場である一方、そこの労働者は、機械に合わせて朝から晩まで働いていたのです。

 なぜかというと、人間の働く時間に生産量が比例していたからです。ですから、いかにたくさんの人が長く働くかを考えることが、工業化時代の基本でした。これが機械に合わせて働く時代です。そして、この頃も働き方を議論する余地などなかったのです。


●労働時間減少で働き方も自由に


 今はようやく、農林水産業といった一次産業、二次産業の比率が減ってきて、特に農業については随分と労働時間が減り、米を作るのも非常に短い時間働けば済むようになってきました。工業についても、無人化工場ができてきて、働き方は非常に自由になってきたのです。サービス産業についていうと、お客さんがいつ来るかに合わせて、こちらがいつ開けておけばいいか、ということを決めさえすれば、働き方は自由になってきたわけです。

 ここで、人によっては余暇を楽しみたい、生産だけに全てを打ち込むという人生を送りたくない、という自由が生まれてきているので、今、働き方を議論することができるようになってきたということです。これが、(働き方改革が議論されるようになってきた)第一の理由です。


●少子高齢化時代、働く期間と第二の人生が同じ長さに


 もう一つの理由として、この問題を突破しなければ社会がもたない、ということがあると思います。私は三人兄弟で、私の母は五人兄弟でしたが、子どもがたくさん生まれて人口が増えることが食料危機をもたらすといわれた時代が、ほんの数十年前にあったのです。今は全く逆で、このままいくと日本の国がなくなってしまうという少子化の時代を迎えています。そうすると、働き方を変えて若い人たちがもっと余裕のある生活を送れるようにならないと、こういう課題は克服できないのです。

 日本は「定年は60歳」とずっと決めてきましたが、最初に定年を決めた時の平均寿命は56~57歳ほどでした。ですから、平均寿命よりも定年の方が長かったのです。いわゆる、定年後の人生というものがほとんどなかったわけです。しかし今は(違います。)例えば22歳から60歳まで働くとすると38年あります。また、60歳から98歳まで生きれば、やはり38年あります。そうすると、働く期間といわゆる第二の人生というものの長さが、同じになってきています。


●働き方に対する考え方を変えなければいけない


 こういう時代になると、若い人たちが「最初の38年に全てを捧げる」という感覚を持っているかというと、そうした人もいるかもしれませんが、多くの人がそうではないでしょう。自分の人生を(仮に)90歳、あるいは100歳までとすると、その人生全体を頭に思い浮かべるとい...
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