10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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「スキルの陳腐化」に対処することが中長期的なポイント

「働き方改革」の課題と展望(3)スキルの陳腐化への対応

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏が、働き方革命の本丸と位置付けるのが、生産性の向上だ。一人一人が、働く上で必要なスキルや知識をもっと身に付ける機会を十分に提供することが、改革の実現では不可欠だと言う。この背景にあるのは、急激な技術革新が引き起こす、「スキルの陳腐化」という現象だ。(全6話中第3話)
時間:09:06
収録日:2017/02/21
追加日:2017/03/18
≪全文≫

●スキルアップこそ、「働き方改革」の本丸だ


 次に、中長期的な課題も含めた方策に入っていきましょう。中長期的には、生産性を高めていくにはどうしたらいいのかが大きな課題になってきます。そしてずっといわれていることですが、これはなかなか難しい課題だろうと思います。

 私が重要視しているポイントは、必要な能力、必要な知識、必要なスキルを、もっと積極的に身に付けさせることです。働いている本人の視点からすると、そうしたものを身に付けていく努力をする必要があるということだろうと思います。

 広くいえば、これは教育の問題ということですし、会社の中では技能訓練や能力開発といわれていたものです。こういうものを、もっと幅広く、より積極的にやっていくことで、人々の能力を高め、生産性を上げて、より稼げるようにしていく。これが大事になっていると思います。


●社内教育を後退させてきた日本企業


 こういうことを改めて申し上げなければいけない理由は、大きく分けると二つあると思っています。一つは、日本企業の体質です。世界的に見れば、日本企業は伝統的に、社内教育や能力開発をかなり手厚くやってきた組織だと思います。そしてそれを通じて、能力の高い人材が配置されてきた部分があります。

 しかし、いろいろな国際競争が徐々に激しくなってくると、各企業も余裕がなくなってきます。例えば、今までは能力開発に人を割き、半年ほど研修を行っていたとします。これが、やがて3カ月になり、1カ月になり、1週間になり、3日になっていく。そして、研修を行わなくなった3カ月なり半年なりは、とにかく働いてくれ、ということになってきました。

 そうなると、それで働く時間は増えますから、業績が上がったように見えるわけです。しかし、そうやって皆が自転車操業のようにやっていくと、結局は将来必要な能力(への教育投資)がだんだんと細くなっていき、中長期的には稼げなくなります。こういう事態になってきているのだろうと思います。

 バブル期に比べて、社内訓練に充てられたお金は、場合によると10分の1ぐらいになっているという実証研究もあります。バブル期は、お金を出し過ぎていたぐらいかもしれませんが、確かに周りを見渡してみても、そういう教育訓練や研修に充てられている時間とお金は、随分削られていることが分かります。ここを、もう少し考え直さなければいけません。

 なお、ここまでの話は主として正規雇用の社員に関するものです。非正規雇用の人たちに関していえば、例えばパートの人たちは、そういう研修を受ける機会すらないといったこともあります。最近でも、研修なしという状況が全くないわけではありませんが、非正規雇用の人たちにも研修を行って能力アップのための機会を与えることで、彼らの賃金を伸ばし、同一労働同一賃金に近づけていくことも、これからはとても必要になってくるのだろうと思います。細ってきてしまった教育投資を改めて進めていくこと(が大事であること)が、こうしたことを申し上げる一つ目の理由です。


●飛躍的な技術革新が、既存のスキルを脅かす


 もう一つの理由は、経済環境あるいは技術環境の急速な変化です。ここでいう変化とは規模だけでなく速度のことでもあり、その速度が速いことにも注目すべきだと思っています。変化が速いと、そこで必要とされる能力や知識がどんどん変わっていきます。今まではすごく能力を発揮できて、生産性を高めていたような場合であっても、その環境が変わ...
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