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クラッスス・ポンペイウス・カエサルによる第1回三頭政治

ローマ帝国への道~ローマ史講座Ⅲ(2)第1回三頭政治を支えた3人

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
カエサル(ガイウス・ユリウス・カエサル Gaius Julius Caesar)
トロイカ体制に2000年も先立って共和制ローマの末期に現れたのが「第1回三頭政治」だ。それを支えたクラッスス、ポンペイウス、カエサルは、それぞれ何を象徴し、何を競っていったのか。古代ローマ史を専門とする早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏に案内していただこう。(全7話中第2話)
時間:11:39
収録日:2016/12/16
追加日:2017/03/22
カテゴリー:
≪全文≫

●クラッススは富、ポンペイウスは軍事的功績を握っていた


 この3人(クラッスス、ポンペイウス、カエサル)はそれぞれ非常に大きなメリットを持っていました。まず、クラッススは大変な金持ちです。ローマ最高の資産家といわれていて、かなりあくどいこともやっていました。彼の経歴は、前回お話ししたスッラの部下として始まりますが、民衆派と戦う中で、敵方でも特に富豪を選んで処刑の対象にするなどして、いち早く財産をかすめ取っていきました。

 また、史料に残る面白い逸話としては、ローマに頻繁に起こった火事を利用しています。今のように消防システムは完備していませんし、ローマの市街地は小さな路地で区切られた密集地だったため、一旦火がつくと相当広い土地が焼けてしまいます。クラッススはその機会を利用して、土地を買い占めてしまったのです。日本でも、第二次世界大戦末期には、同じことをやって資産を築いた人たちがいると聞いています。

 ともあれ非常に利に聡いところがあり、大資産家として幅を利かせていきました。とはいえ、彼は個人的には面倒見がよくて、平民階級のごくごく貧しい者に対しても、それほど尊大な態度はとりませんでした。また、大資産家でありながら生活ぶりは意外に質素なものでした。そんなことから、クラッススはかなり強引な形で財産を取ろうとしたのですが、「クラッススのやっていることだからしょうがない」といわれるような、変な人気があったのです。

 ポンペイウスは、軍事的功績において、非常に優れていました。特に地中海世界の東側、ギリシアやシリア、アナトリア(現在のトルコ)などの地域へ入り込み、征服して手なずけていく過程で、土地の有力者との密接な関係をつくっていきました。彼は軍事的な功績とともに、東方世界における勢力基盤をもつくり上げていった人なのです。


●資金のないカエサルの「借金王」戦略


 一方、カエサルは彼らより若かったこともあり、2人と比べると資産もないし軍事的功績もありませんでした。しかし、彼は政治的な天才といわれるほど、さまざまな調整やいざというときの決断力において、非常に優れていたのです。あまり仲の良くなかったクラッススとポンペイウスというローマでも突出した勢力家を結び付けたのは、彼でした。

 折しもローマは徐々に帝国的な規模を拡大していた頃でした。当時の元老院はわずか300人ほどの集まりでしたが、それでもその合議に任せると、なかなか物事が決まりません。帝国という形でどんどん規模の大きくなるローマにとっては、なんとかしなければならない問題でした。そこで、平たくいえば、この3人でいろいろなことを決めた方が手っ取り早いだろうということになります。それが「第1回三頭政治」の起源でした。

 その中にあって、カエサルが欲しかったものの一つに資産がありました。攻略には長けているけれども資力のなかった彼は、一説には「借金の天才」だったともいわれています。あちこちからうまくお金を集めていたわけですが、彼はそれで私腹を肥やしたわけではありません。そのお金を四方八方にばら撒き、自分の部下を増やす手段として使ったのです。

 カエサルにお金を貸す側には、「あんなふうに使われたのでは、いつ返してもらえるか分からない」という恐れがある一方、カエサルならきっと何かやってくれるだろうという期待もあったのです。また、大資産家であるクラッススは、自ら直接貸し手になる一方で、カエサルの保証人もずいぶんと務めています。もちろんクラッススにしても、カエサルという人間の能力を的確に判断した上で借金の保証人になっていました。このように、ある時期のカエサルは、借金に頼っていたのです。


●『ガリア戦記』をめぐって


 カエサルにはもう一つ欲しかったものとして、ポンペイウスに並ぶような軍事的功績がありました。皆さん、よく知っていると思いますが、彼は『ガリア戦記』という著作を遺しています。

 この本はラテン語の傑作といわれており、今でも大学ではラテン語の初級文法が終わると、だいたい最初に読むのが『ガリア戦記』です。これは、非常に読みやすい、簡潔な文章で書かれています。

 私も、大学の時には最初に文法(の講義)が終わった後でこれを読みました。ラテン語のクラスは最初30人ほどいたのですが、だんだんと文法の複雑さについていけなくなります。古典語はラテン語に限らず、ギリシア語もそうですが、語尾がいっぱいあったり、動詞がたくさん変化したりと、近代語より複雑にできていて面倒臭いところがあります。

 そのために、次第に皆、脱落していって、最後に残ったのは2人でした。それが、つい2~3年前まで一橋大学の学長を務められていた山内進さんと私です。山内さんは、テンミニッツTVでお話になっている山内昌之さんの弟...
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