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中東におけるロシア・トルコ・イランの不思議な協力関係

中東の新たな地政学的変動(1)ISの退潮とシリアの混乱

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
アレッポ・イン・シリア( ピーターズ・ヤコブ、1690)
歴史学者・山内昌之氏がシリアを中心とした中東の新たな地政学的変動および、それに関連したロシア、トルコ、イランの不思議な協力関係について解説する。IS(イスラム国)はトルコ、アサド政府軍、クルド防衛部隊などの攻撃を受け、シリアから退潮傾向にある。しかし、シリアの混乱、疲弊は深まるばかりだ。その背景には、中東およびユーラシアの地政学構造の変化と各国の交錯した思惑がある。(全5話中第1話)
時間:11:13
収録日:2017/02/22
追加日:2017/04/03
ジャンル:
≪全文≫

●シリア、イラクからの退潮しつつあるIS


 皆さん、こんにちは。

 今日はシリア情勢を中心として中東で形成されている新しい地政学的変動、そして、ロシアとトルコとイランとの間に結ばれつつある不思議な協力関係、ないしは疑似同盟関係の問題について、お話ししたいと思います。

 シリアとイラクにおけるIS(イスラム国)の退潮傾向はとどまらないところがあります。少なくとも、今ゆるやかにISの勢力が退潮しつつあるということは、事実です。(シリア北部の)アレッポがこの間、落ちたのに引き続いて、イラクのモスルの陥落が続けば、ISの本拠ラッカの安危、そこを保持できるかどうかは予断を許さない状況になってきているからです。


●シリアにおけるトルコ、アサド政府軍、YPGの勢力地図


 ここで少し、地図を見てみたいと思います。今、お話ししたアレッポはこの位置にあります。ここ(その北)がトルコ国境になります。アレッポは、トルコから南の方にかけてシリアに入っていったとき最初に位置する最も重要な北シリアの戦略的な都市であり、ダマスクスに次ぐ戦略的、あるいは経済的な都会といっても差し支えありません。ラッカが地図上、オレンジ色でほぼ埋め尽くされていることからも分かるように、今やアサド政府軍の攻略によって、政府がこの地域の支配を再回復、あるいはそれを奪ったということになります。

 それに対して緑になっている部分は、昨年(2016年)のトルコ軍のシリアへの進駐によって、トルコがISから奪い返した地域です。これは基本的にはトルコ軍とFSA(自由シリア軍)が統治しています。

 こちらは、2017年2月20日付の、ある軍事専門誌に出されていた最新の地図ですが、これでお分かりいただけるように、2つの黄色の部分はクルド人の地域、クルド人部隊であるシリアクルド人のYPG(クルド人民防衛部隊)が占拠し、今、拡大した地域です。


●トルコのシリア進駐に対する意味


 トルコ軍がシリアに入っていったのは、その中の自由シリア軍を助けるという意味に加え、ISを駆逐するという意味もありました。ISは黒で示されているところ(アレッポの東の方)まで退かざるを得なかったわけです。つまり、トルコの国境からISは遠ざけられたということになります。

 この作戦にはもう一つ意味があります。それは、クルド人たちがトルコ国境において(分かれているそれぞれの支配地域を)つなげる、そしてトルコ国境からシリアにトルコ人やトルコ軍が入っていけない状況をつくるという状況になるのを阻止したことです。トルコは、(シリア北部に)大きな回廊をつくって、シリアのスンナ派アラブの世界にきちんとパイプを通すということが目標だったのです。


●各国の関心事はIS本拠地ラッカの陥落


 先ほどお話ししたようにISの力が落ちているわけですが、ISの中心地であるラッカ(アッ・ラッカ)は、地図で見ると左の黄色で書かれたクルド人地域の南にあります。ちょうどアレッポとダマスクス、あるいはアレッポのある北シリアからモスルに抜けていくような線、こういうところにある要衝がラッカというISの本拠地なのです。これをいかにして落とすかが、現在、関係者の大きな関心事となっています。


●ロシアとトルコの接近でユーラシア地政学構造も変化


 このようにして中東情勢の中心となるシリアにおいて、大きな変動の兆しが見られる折も折、中東のみならずユーラシアの地政学構造に、大きな影響を及ぼす国際関係の変化が生じています。それは最近のロシアとトルコの接近です。

 私も何度かこの10ミニッツテレビオピニオンでお話ししたように、2015年11月のトルコ空軍の戦闘機F16によるロシア空軍機Su(スホイ)-24戦闘爆撃機の撃墜以来、悪化していた両国関係は、昨年2016年の夏から秋にかけて正常化しました。それは、シリア紛争の評価をめぐっても対立関係にあったロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領という2人の個性的な大統領の決断と情勢判断に負うところが多いのです。このことは、国際関係において私たちが実地で学ぶことの実に多い、大変大きな政治的な取り決めであると思います。

 シリア市民に対するロシアの軍事干渉、あるいは容赦のない空爆は、反アサドつまり反政府勢力に対して、最終的に勝利というものを事実上断念させるほど、過酷なものになりました。これほど強烈なロシアの存在は、歴史の流れに照らして考えると、誠に印象的なものがあります。つまり、ロシアがこれほど公然と、中東において軍事作戦を展開したり、あるいは市民を巻き込むような軍事活動にしたというのは、ほとんど初めてということになります。


●欧米に対抗するためロシアと「政略結婚」したトルコとイラン


 かつて、冷戦期にバグダード条約機構というものがありました。これは中東条...
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