●シリアへの軍事干渉で優位性を示すロシア
皆さん、こんにちは。
引き続き、中東におけるウラジーミル・プーチン大統領とドナルド・トランプ大統領、あるいはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領やハメネイ師といった非常に個性豊かな政治家たちの戦略形勢について、お話しします。
ロシアはシリアに対する軍事干渉の目的をほぼ達成しつつあります。特に地中海沿岸のラタキアにおいては、ロシアは作戦への参加によって、もともとアサド政権の出身地であったこの地域における失地の回復と、政権の支配地域の拡大と安定化に成功したかに思われます。何よりもラタキア一帯に対して大きな戦略的なにらみを利かせるアレッポを、政府軍がほぼ掌握したということが、ロシアの優位性を示しているといっていいと思います。
●ロシアの支援で支配地の連続性を回復したアサド政権
2015年にロシアのプーチン大統領がシリアに軍事干渉を始める以前、シリア政府は領土の一体性はもとより、アサド大統領自らの出身地であるラタキアを中心としたアラウィー派の支配地域でさえ孤立化し、このラタキアからダマスカスに至る勢力圏、支配地域の連続性や接続性を失う危険に直面していました。
前回もお話ししたように、トルコは、スンナ派アラブ世界、すなわち南へ抜けていく地域と直接にアクセスすることを遮断される危険性、つまりクルド人たちがシリア北部で勢力圏を持つことによってそれが遮断されるのではないかという危惧に対して、そういう事態を防止するため北シリアに干渉しました。
ラタキアからダマスカスに及ぶ地域は反アサド政府の組織によって脅かされていたため、アサド政権の支配地の連続性が失われる危険に直面していたのです。しかし、今ではロシア軍のおかげをもって、中央シリアにおける有名な古代の遺跡があるパルミラに攻勢をかけたIS(イスラム国)でさえ押し返して、アサド政権は支配地の一体性を持つようになっています。すなわち、ISはそういった一体性を脅かす力を失いつつあるといっていいかと思います。
●東地中海でのNATOの力は弱まる一方
その上、西シリアにおけるロシア軍基地の増大は、NATO(北大西洋条約機構)がこれまでは優勢であった東地中海におけるバランス・オブ・パワー(均衡)の回復に弾みを付けており、NATOの海・空軍の作戦能力は、東地中海のシリア沿岸の水域や空域において、十分に発揮することができないといった状態になっています。
しかも、NATOの重要加盟国でありアメリカの同盟国であるトルコが、ロシアと事実上の同盟を組むことによって、新たなシリア戦略を展開しているということにも象徴されているように、NATOの東地中海からシリアにかけての力は弱まる一方なのです。
●アサド政権支援とクルド人勢力接近をこなすロシア
しかしながらロシアは、アサド大統領の権力保持やアサド政権による全シリアの領土回復という意図、これを全て無条件で支持し援助しているかというと、事態は必ずしも単純ではありません。ここでプーチンとアサドという2人の大統領の、非常に特異な個性を持つ歴史上の人物同士の接触やぶつかり合いというものが見られるところが、歴史の妙たるゆえんです。
北シリアのクルド人防衛兵力という意味を持つYPG(クルド人民防衛隊)やPYD(クルド民主統一党)といったクルド勢力は、もともとアメリカが援助し育ててきた、つまりISと直接自ら戦えないアメリカが地上戦の兵力として期待してきたものです。このYPGやPYDにロシアが接近し、関係を改善していることは、ロシアとトルコの接近と同じように、アサド大統領にとっては歓迎できるものではありません。
●自国利益のため圧倒的外交力で新三国同盟を計るロシア
ロシアはその上、トルコの反アサド勢力への公然たる支援に目をつぶっています。シリアの民主的と自称する反政府勢力は当然アサド大統領にとっては、非常に厳しい対立者です。この敵対者である反アサド政府の勢力に対して公然と援助しているにもかかわらず、そのトルコをロシアが支援しているというのは、誠に理に合わないことです。ロシアは端倪すべからざる外交力をもって、アサド政府を支援しているイランと、そしてアサド政権に反対しているトルコを、自らの利益の下で一種の三国同盟に引き入れたということです。
さらにクルド問題をめぐっても、シリアのクルド人との対話を刷新しました。新たな段階にステップアップしたということです。ロシアはつまり、シリア危機の解決をアサド大統領の本意に解決するかというと、そうではないということです。アサド大統領ばかりに有利に図ることを決して意味するわけではなく、政治問題の解決とその後のシリア情勢の中で、ロシアがいかに有利な立場を構築できるのかということが、当然ロシ...