●ロシアとの接近で国境危機を救ったトルコ
皆さん、こんにちは。
(これまで)シリア危機をめぐるロシアとトルコとの接近についてお話ししてきました。これはシリアの政治プロセスにおいて、2つの影響を与えています。それは、アメリカの影響力の減少はもとよりですが、もう一つ忘れてはならないのは、イランの力の減少、少なくともその制限をロシアが図ったということです。
トルコは2015年来のロシアとの緊張状態を克服し、和解からさらに政治協力、そして事実上のシリア問題に関するアドホックな同盟に進むことによって、一種のボーダー・クライシス、国境危機を救ったといえます。つまりそれは、シリア国境に沿って自治区もしくは勢力圏をつくられることを全て阻止し、トルコがダマスカス、ひいては南のスンナ派アラブ世界にそのまま接触できる可能性を保持した、という意味においてです。さらにトルコはこのことによって、歴史的にスンナ派のライバルであるシーア派の総帥イランの影響力を薄めることに、ひとまず成功しました。
●国境危機を救うためにトルコが払った2つの代償
もっとも、その一種の代償として、反政府勢力にアレッポから退去させる、つまりアサド政権と組んでいるロシアのメンツを立てるために、アサド政権と戦っている、そして自ら援助してきた反政府勢力に、北の重要な戦略的都市であるアレッポから退去させました。
もう一つの代償は、トルコがシリアに南下し戦略的に干渉政策を始めた時に図っていたこと、すなわち東のクルド人によるユーフラテスより西側の中心都市マンビジュの占領を止めさせて、クルド人をそこから追い払うという政策を、今ひとまず中止しているということです。つまり、クルド人との正面衝突を避ける、あるいはクルド人との妥協を余儀なくされるというもう一つの譲歩をした、ということです。これは、今のところトルコにとってやむを得ない譲歩、あるいはぎりぎり忍耐できる限界で譲歩したということです。
●ISのアルバーブ退去の背後にある各国それぞれの意図
今、トルコ軍は北からアルバーブというISの支配している地域に迫っており、シリア政府軍はアルバーブにつながる都市に南から入ることを慎重に避けていますが、これはトルコ軍と接触することを避けているかのように思われます。一番新しい情報(2017年3月1日現在)では、このアルバーブからISが退去したということが、伝えられています。
なぜISが退去したのかというと、IS側としては自らがアルバーブを退くことによって、トルコ軍とシリア政府軍を衝突させて、自分たちに対する圧力を分散させ、かつ相手方に内輪もめを起こさせるという意図を持っているという、反ISの中の複雑な構造を読んだから、ともいわれています。
しかしながら他方で、これはなかなか複雑なところですが、アルバーブは将来、北シリアにおけるFSA(自由シリア軍)が和平の過渡期において管理する地域の中に入っていると、ロシアとトルコが割り振りをしたという説があります。それをロシアがアサド政権にも料簡させた。アサド政権も過渡期においては(アルバーブを管理するということが、)アサド大統領の目論見なのでしょうが、一時的にFSAが管理することも、ロシアとの関係、ひいてはロシアを介したトルコとの関係上やむを得ないという判断が成り立った。このような解釈もあり得ます。
●ロシア・トルコの共通の利益-イラン抜き・アメリカ抜き
いずれにしても今起こっている状況では、ロシアとトルコの主観的な意図は違うにしても、それぞれにある種の特徴を持った戦略を採用しているわけです。それは「イラン抜き」、「アメリカ抜き」という選択です。イラン抜きとアメリカ抜き、どちらにどのように比重がかかるかはともかくとして、従来シリアにおいて一番大きな影響力を持っていたイランの力を減退させる。そして、シリアにおいて地上軍部隊を投入していないとはいえ、国際関係上の大きな影響力を持っているアメリカの力を削ぐ。これはトルコとロシアにとって、共通した利益、いわばウィン・ウィンの関係になると思われます。
したがって、イランを含めた三国関係、三国同盟は、もちろんシリア問題、シリア危機を解決し、そこに持続的に平和を持ち込むことには、いまだに成功していません。しかし、ロシアとトルコの接近が、両国のシリア政策における重要なキーファクターになったということは、今のところ否定できません。
●財政危機と国境危機という事情
ロシアにとっては、シリアに対する大規模作戦が財政赤字をもたらす、あるいは多大なコストをもたらす政治的な犠牲、負担になっています。そして、今後は地上軍兵力を持つトルコとの妥協なしに作戦を遂行、あるいは財政負担を持つことはできないのです。つまり、北シリア...