●「オバマの世界的影響力が減っている(英『エコノミスト』誌)」
ただ、オバマという人は、少し「?」ですね。最近の『エコノミスト』誌の論文に、「オバマの世界的影響力が減っている」とありました。
例を挙げて、日本は尖閣を守ってくれるかどうか心配している。サウジアラビアやイスラエルは、イラン交渉の席上で本当に自分たちが裏切られないかを心配している。東ヨーロッパの国々は、ロシアが攻めてきた場合、守ってくれるかどうか心配している。それらが、オバマに対する各国からの心配です。
●シリア危機でオバマが犯した本当の失敗は、事前の相談不足
理由は二つ挙げられています。一つは、シリアで優柔不断だったこと。ただ、これはある程度は政策の急転換に伴う「決まり事」のようなものです。シリア問題の一番の欠点は、これまで「イラン制裁」で締めつけていたのを、急に変えたことにありますからね。
ただ、それよりも問題は、方針を決める前に誰にも相談しなかった点です。あれは、ホワイトハウスの庭をデニス・マクドノー大統領首席補佐官と二人で歩きながら、「これ、どうしようか」「いっそ議会に任せよう」と決められたことだと言います。ジョー・バイデン副大統領以下、ジョン・ケリー国務長官、チャック・ヘーゲル国防長官、スーザン・ライス大統領補佐官の誰とも相談せずに、パッと決めたのだという。
その結果、ホワイトハウスの中でも、議会でも、民主党の中でも、オバマをかばわなければいけない人間がゼロになってしまった。だから誰一人かばわなくなり、せいぜい黙っている程度です。これは、オバマの明らかな失敗ですね。
●仲間意識より「敵と仲良く」を重視するオバマの「リベラル」
もう一つ。『エコノミスト』の論文のいいところは、「オバマは、どうも仲間意識を持たせない」と指摘しているところです。先ほどおっしゃった「ビジネスライク」な態度ですね。皆そう呼びたがりますが、むしろ彼は「リベラル」なのです。
自分の同盟国や仲間がいて、まず相談して足元を固めてから外に向かうというのではない。彼はむしろ「同盟などをつくって、第三者を阻害するのはよくない。同盟よりも敵に手を差し伸べて、仲良くしよう」という考えです。
だから就任早々、「リセット」方針を打ち出してロシアと仲良くしようとしたが、これは何も効果が上がっていません。また、中国には何度裏切られても、何としてでも対話する、仲良くするのだと言います。その前に、中国に対抗して、共に安全を守らなければならない同盟国と一緒になってから、というのであれば話は分かります。でも、そうではない。
今までの友だちや義理人情よりも、誰とでも仲良くしなければいけない。敵に対しては特にそうで、対立が深刻であればあるほど、手を差し伸べなければならない。この考えは「リベラル」そのものです。そういうことも『エコノミスト』は指摘しています。
●中国への配慮は変わらないが、全体として成功だった首脳会談
その二つの理由から、オバマの影響力がなくなってきました。だから、日本もそれと戦わなければなりませんが、シリアの方は、「尖閣は安保条約の範囲内だ」と認めましたから、日本外交は成功です。
ただ、本当に仲間内になったのかというと、まだ分からない。オバマが来日する前に、バイデン副大統領が記者発表原稿を用意しました。「日本や東南アジアの同盟国とは仲良くしなければならない」と強く強調して、そこでやめておけば何事もなかったのに、「しかし、中国とは仲良くしなければいけない」という一行が入りました。
今度のオバマ大統領の記者会見でも、最後にそれを言うものだから何が何だか分からなくなるのです。変えてほしいといっても、オバマの性質がリベラルである以上、仕方がない。「汝の敵とも仲良くせよ」と言われたら、これには反対できません。
だから、そこまでは成功しきれなかったのですが、首脳会談全体としては成功ですよね。