●Xプライズの始まりは、リンドバーグの無着陸飛行
最後に、Xプライズに関してお話します。元をたどると、これはアメリカのオルティーグ賞が最初だと言われています。1919年に、ニューヨークのホテル経営者がオルティーグ賞を設立しました。ニューヨークとパリの間で、無着陸の飛行を最初にやった人に賞金を出すというものです。当時のお金で2万5,000ドル、今だったら億に達する額ではないかと思います。こういう挑戦を成し遂げた人に賞金を出すという公募をやりました。
こういうことをやったため、開発の期間がものすごく短くなりました。みんな戦うわけですから。1927年に、リンドバーグがこの挑戦に勝ち、賞金を手にします。アメリカは、オルティーグ賞の効果が非常に高いことが、その後も評価されています。
最近だと、こういう方式をXプライズと言います。例えば、DARPAグランド・チャレンジといって、自動走行の自動車で目的地まで早く行けた自動運転走行自動車に賞金を出すとか、あるいは荒野をきちんと歩き回ったロボットに賞金出すなどです。この方式によって成果がたくさん出て、二足走行ロボット自体は日本が最初に作ったものでしたが、その後の実用面ではアメリカにどんどん抜かれる事態になりました。そのきっかけが、このXプライズという方式です。
●Xプライズこそがイノベーションに大きく貢献する
これは、ターゲティング型ではありません。Xプライズは、何かをやりたい、それに対してプロポーザルを出してくださいというやり方です。プロポーザルを出した人に開発資金を与え、開発してもらうと言っても、イノベーティブなことを高めなければいけない場合、そういうやり方を取ったからといって、絶対に成功する保証はありません。もしかしたら失敗してしまうかもしれない。
Xプライズ方式の良いところは、成功した人には開発資金を含めた分を賞金として全部を払うことです。これは素晴らしい方法だと、私は思っています。とにかく競争して成果を出す、競争で勝ち抜くというやり方は、アメリカ人の心情にも合うことがあって、大成果を挙げています。
イノベーティブなことを起こすためにも、こういう方法は日本でも大事だと思います。そこで最近では、いろいろな民間会社の方と一緒に、日本でもこういうことをやろうという運動を起こしました。前回言った東京メトロさんもそうですし、フレームワークスさんもそうです。最近ではRICOHという会社です。360度カメラのTHETAという製品があるのですが、そのAPIを、私の考え通り完全にオープンにし、それを使ってイノベーティブなソフトウエアを作ってくれた人に賞金を出して開発を援助するプログラムをやっています。ここでも、面白いものがユーザー提案の中からいろいろ出てきています。
イノベーションは、やはりこういう方程式でやったら絶対起こるというものではありません。成功するか失敗するかは、確率的に決まってくる問題です。だからこそ、こういう新しい方式で開発をすることも、IoT時代には重要ではないかと思っています。
●技術以上に重要な、社会制度の問題
今日、私はいろいろ技術の問題も言いましたが、このIoT時代でもって重要なのは、実は技術の問題だけではなく、社会的問題が大きいと、私は思います。フレームやコンソーシアムなど、そうしたオープンな規格をどうやって作るのか、みんなでつながってくための仕組みをどうやって作るのか、ということが重要になってきます。
インダストリー4.0は、ドイツの産業政策力を維持するための産業ビジョンです。インダストリー4.0を買ってくればIoTは実現できると勘違いしている人がよくいますが、そうではありません。これは、みんながつながるためにはどういう仕組みにしなければいけないのかが書いてある産業ビジョンなのです。
似たようなことを、実は日本でもたくさんやっています。トヨタのカンバン方式も、素晴らしいものです。ITをたくさん使い、物をどう運んで最適な生産調整を行うかというシステムです。ただ残念なことに、トヨタのカンバン方式は、トヨタの系列会社であれば使うことができますが、全く関係ない人がこのカンバンの仕組みに入ることはできません。
トヨタが今やっていることに、トヨタの社員ではない人が入ってもしょうがないという話もありますが、もしもこういうジャスト・イン・タイムで物を運び、いろいろな無駄をなくす取り組みを国全体で行うことができたら、これは素晴らしいことですよね。だから今、世界では産業政策がそういう方向に向いています。
またアメリカにも、インダストリアル・インターネット・コンソーシアムというものがあります。これはもともとGEが行っていたクローズな企業システムです。GEは、発電所や大きなプラントを、世界中に何万個...