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中東複合危機―中東情勢はなぜこれほど複雑なのか?

2017年世界と日本(5)中東複合危機がもたらす世界不安

島田晴雄
公立大学法人首都大学東京 理事長
情報・テキスト
中東情勢はなぜこれほど複雑なのか? それは多くの民族、宗派、地域勢力がひしめきあっていること、サイクス=ピコ協定に始まる複数の条約がからんでいることなどが関係している。さらに、米露という大国の介入が事態を複雑にしているのだが、その一連の事情、経緯、背景について、公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏が解説する。(2017年1月24日開催島田塾第142回勉強会島田晴雄会長講演「2017年 年頭所感」より、全11話中第7話)
時間:14:04
収録日:2017/01/24
追加日:2017/05/10
≪全文≫

●世界を不安に陥れているISとテロ


 中東複合危機のもたらす世界不安についてお話しします。今どういうことが起こっているかというと、ISとテロです。振り返ってみると、例えば2015年1月、フランスで新聞社が襲撃されました。同年11月、今度は人々の娯楽施設などがやられて、たくさんの人が死にました。バングラデシュでもテロがありましたし、ブリュッセルの空港もやられました。ドイツでも2016年12月にテロがありましたが、十数人が死にました。こんなことがどんどんあるわけです。日本も当然、ターゲットになっています。

 これらの国で何が起こっているのかといえば、紛争と内戦です。その結果、必ず民衆が犠牲になります。そうすると彼らは難民となって、助けを求めて出てくるのです。


●ISはプリモダン、モダン、ポスト・モダンの混合体


 中東はあまりにも関係が複雑です。山内昌之先生が『中東複合危機から第三次世界大戦へ イスラームの悲劇』(PHP新書)という、少し飛んでいるタイトルですが、とても立派な本を出しています。この中で彼が言っているのは、「第三次世界大戦は始まっている」ということです。どういうことか。封建時代はプリモダンの時代で、フランス革命、アメリカ独立からはモダン、つまり「進歩はいいことだ。平等、民主主義はいいことだ」という時代で、私たちはその時代の申し子です。その次に、ポスト・モダンがあるだろうということです。政治学者の中ではEUはポスト・モダンだといわれていました。つまり「国民国家を超越するんだ」と皆が夢を描いたのです。

 山内さんはもっと皮肉を込めて、「ISがそれを見せている。ISは、今の国民国家の時代に生きていながら、実はネットワークによって、実体のない国家として国境を越えている」と言っています。これはポスト・モダンです。


●複雑な中東問題-アラブのシーア派、スンニ派の対立


 また、アラブの対立を特徴付けるのはシーア派とスンニ派の対立ですが、分かりにくいでしょう。これは何かというと、ムハンマドが死んだ時、子どもがいなかったのですが、子どもに近いような弟子たちが何人かいたので、(彼らの中から選ばれた人が)「カリフ」と名乗ったのです。しかし、彼らは権力闘争ばかりで、殺し合いも行われています。一番、殺されたのはシーア派なのですが、その怨念が今日まで生きているのです。スンニ派の総大将はサウジアラビアで、シーア派の総大将は今、イランになっているのですが、いろいろなことがあり、そのあたりも分かりにくいところです。


●中東を知るには混戦模様の各国事情の理解が必須


 そして、イラクとシリアはとうとう破綻国家になってしまいました。だから、ISがそこに巣くっているのです。アメリカは「ISはけしからん。壊滅する」と言っているのですが、自分は手を出したくないので、ドローンと反政府勢力を使うわけです。反政府とは誰かというと、クルド人です。また、ロシアも「ISをやっつける」と言うのですが、先にISを攻撃しないでクルド人から攻撃しているのです。なぜかというと、ロシアはアサド政権を助ける側におり、アメリカが反政府勢力の彼らを助けているからです。

 そこにトルコが入ってきて、ある時はクルド人を攻撃し、ある時はクルド人を助けるという、よく分からない態度を取っています。そしてトルコはロシアともぶつかっています。ロシアと仲良くやっていたと思ったら、いきなりロシアの戦闘機を撃墜したりするのです。19世紀に露土戦争があったのですが、皆さん、分かりますか。そういうことで、中東は混乱しています。こういったことが全部分からないと、中東のことは分かりません。


●3条約が生んだ複雑な構図が代理戦争でますます混乱


 こうしたことについて、なかなか見事なことを言った人がいます。池内恵という先生ですが、この先生が、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)という本を書いています。皆さん、サイクス=ピコ協定は知っていますよね。イギリス人のマーク・サイクスと、フランス人のフランソワ・ジョルジュ=ピコが1916年に(原案を)作りました。

 第一次世界大戦後、オスマン帝国の領地を英仏で分割しました。その時、ロシアが「関わらせてほしい」と入ってきたのですが、その後、ロシア革命が起こり、役割を果たせなくなります。フランスは領地を持ったけれど、統治ができないのです。そうこうしているうちに、もう駄目だという状態になってきました。いろいろな民族、宗派があるので、地域勢力として自分たちが頑張れる地域を統治しようと思っていたら、何十という地域ができてしまったからです。そのため、それを条約で認めようとしたのが、1920年のセーブル条約です。

 その時、「いくらなんでも何十もあったら、これは統治にならないだろう」と言って、ト...
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