10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜ民主党ヒラリーは共和党トランプに負けたのか?

トランプ政権の行方と日米関係(6)民主党リベラルの課題

ジェラルド・カーティス
政治学者/コロンビア大学名誉教授
情報・テキスト
政治学者でコロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティス氏が、民主党の敗因を分析する。かつてのリベラルは労働者など、経済的弱者の声を拾っていたが、今のリベラルはアイデンティティーポリティクスを中心にしている。民主党には裕福なリムジンリベラルが増え、アメリカ社会には価値観の分断が広がってしまった。(2017年4月20日島田塾第145回勉強会ジェラルド・カーティス教授基調講演「トランプのアメリカと日米関係」 より全8話中第6話)
時間:11:54
収録日:2017/04/20
追加日:2017/05/17
ジャンル:
≪全文≫

●民主党にもクリントンにも、なぜ負けたのかという反省がない


 最後に、一番大事な話をします。なぜトランプ氏が選挙に勝ったのか。そして、なぜトランプ氏に民主党が負けたのか。最も意味のある問いです。先週、ヒラリー・クリントン氏が講演の中で、敗因を自己分析していました。第1に、ジェームズ・コミーFBI長官が、クリントン氏の私用メールの調査を再開すると発表したことが、マイナスに働いたことです。第2に、ロシアが民主党の本部のメールをハッキングしたことです。第3に、女性であるということがマイナスに働いたことです。この3つの理由で選挙に負けた、というのです。

 なぜ負けたのか、その反省は一切ありませんでした。彼女だけでなく、民主党自体にも反省がありません。確かに、女性であるということはハンディキャップになったと思います。しかし、考えてみてください。アメリカ社会で、女性に対する差別・偏見と、黒人に対する差別・偏見では、どちらが強いでしょうか。残念ながら、間違いなく黒人に対する差別・偏見の方が、白人女性に対する差別・偏見よりも圧倒的に強いわけです。

 ところが、にもかかわらず、バラク・オバマ氏は大統領選挙に勝ちました。つまり、オバマ氏には、黒人であるというハンディキャップを乗り越えるような、人に魅力を感じさせる何かがあったのです。ところが、今度の選挙の場合、クリントン氏は政策通で素晴らしいと思いますが、人間の心をつかむものがあるとは感じられませんでした。彼女は上から目線で人を見るという印象を、どうしてもアメリカ人に与えてしまいました。


●今のリベラルは、アイデンティティーポリティクスが中心


 さらに、最も基本的なことですが、民主党はリベラルの政党です。しかし、リベラルの意味が変わってきており、それはアメリカ社会の大きな変化を象徴しています。昔のリベラル、私が若い頃のリベラルは、労働者や生産階級といった、弱い立場にある人たちのことを考えて政策をつくっていました。これが、私が民主党をずっと支持してきた理由でした。共和党は富裕層を代表する政党であるのに対して、民主党は経済的なリベラルでした。

 ところが、今のリベラルの意味はかつてとは全く異なっています。今のリベラルは、英語でいうアイデンティティーポリティクスのリベラルです。例えば、LGBT、レズビアン、ゲイの平等、ジェンダーの平等を認める。あるいは、中絶を認めたり、気候変動の重大さを認める。このように、マイノリティーグループの社会的な地位を上昇させたり、ソーシャルイシューについて取り組むこと、それが今のリベラルになってしまっています。

 こうした不思議な現象は、最近、大金持ちの民主党支持者が増えていることと関係します。そうした支持者は、財布は共和党的である一方で、心は民主党的なのです。ある若いヘッジファンドのボスは、自分がゲイだからという理由で、ヒラリー氏を支持しました。このようにLGBTの問題を重要視する人たち、あるいはこうした社会問題でリベラルな立場を取っている金持ちは、とても共和党には投票できません。例えば、ペンス副大統領は共和党の伝統的な宗教右派(religious right way)です。ヘッジファンドの若いボスや、お金持ちとは全く価値観が合いません。そこで、彼らは民主党を支持することになります。クリントン氏はそうした人たちの支持を得ていました。


●今の民主党には、リムジンリベラルが多すぎる


 ヒラリー氏が負けると私が思ったのは、昨年8月の1カ月間、オハイオやウィスコンシン、ペンシルバニアには一切行かないで、ロングアイランドのハンプトンで、毎晩ファンド・レイジング・ディナーを開催しているのを見た時です。集めたお金でテレビ広告を出せば当選できるだろう、とヒラリー陣営は思っていたのです。これが彼女の負けた大きな理由です。

 そうしたディナーに出席するのは、金持ちの友達です。英語には、リムジンリベラルという言葉があります。これは、リベラルな顔をしながら、運転手付きのリムジンに乗るほどお金がいっぱいあり、付き合っている友達も金持ちだ、ということを皮肉った言葉です。今の民主党のトップの人たちは、ヒラリー氏に限らず、リムジンリベラルが多すぎます。彼らは皆、イーストコーストのバブルの中に住んでいます。

 選挙結果を見れば、東海岸や西海岸で、民主党は勝っています。真ん中は赤色、つまり共和党が勝っています。東海岸と西海岸以外で、民主党が勝った州は4州しかありません。その他は全部共和党になっています。確実に、アメリカの社会は分断されています。一番気になるのは、それが価値観の分断だということです。全く価値観が違う人たちが同じ国にいるという...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。