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ローマの第1回三頭政治で発揮されたカエサルの政治的手腕

ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(5)カエサルが残した警句

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
ユリウス・カエサル
(紀元前100年-紀元前44年)
ローマの第1回三頭政治の中で、かのカエサルは頭角を現す。カエサルは優しさと器量の大きさの点で偉大な人物だった。早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏は、そのカエサルが残したある警句に注目する。「人は自分が信じたいことを信じる」、この警句に込められた意味とは何だったのか。(2016年9月30日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「歴史に学ぶ戦略思考 ローマ人を中心として」より、全8話中第5話)
時間:15:27
収録日:2016/09/30
追加日:2017/06/07
カテゴリー:
≪全文≫

●三頭政治におけるカエサルの位置


 スッラの後には、有名なクラッスス、ポンペイウス、カエサルという一連の支配者が出ます。画面で示したのはポンペイウスです。これは結構な高齢、50代になってからの彫像ですから、何となく気の抜けたおじさんみたいな顔をしていますが、若い時はかなりハンサムだったと言われています。そして弁論家のキケロ、それからカエサルです。

 スッラは非常に冷徹なところもありますが、そうでない一面もありました。彼は若い時、政権を取ってからもそうでしたが、暇な時間になると、日本風に言えば芸者を上げて遊ぶといったことが大好きだったらしいのです。芸人との付き合いも非常に盛んだった、と言われているぐらいの人物です。しかしいったん仕事になると、味方にはもう徹底的に温情を示し、敵は徹底的にやっつけるというところがあった。

 カエサルは、それとは少し違う形でいきます。このクラッスス、ポンペイウス、カエサルらは、第1回三頭政治と言われています。紀元前の1世紀後半の最初の方、50年から53年ぐらいまでの間に、この3人が、いわば結託してローマの実権を握ります。当時は元老院が、もう大きな権力を持っていました。この時のローマは帝国ではありませんのでまだ皇帝はいませんが、実質的にはエンパイアと言っていいぐらいの規模になっていました。そのくらいの規模を治めていくには、元老院で長く審議していたのでは事が進まない、ということでローマは3人の統治になりました。

 クラッススは、とにかく大金持ちです。ローマ一の大金持ちでした。ポンペイウスという人は、これは圧倒的に武勲を挙げた人で、軍事的功績に優れていました。そしてカエサルは、彼らよりも少し年齢も若いですし、最初の段階ではあくまでも自分の政治的才覚で活躍しました。クラッススとポンペイウスの両者は非常に仲が悪かったのですが、これを調停したのもカエサルです。そうやってカエサルという人物は、活躍します。私の『ローマ帝国 人物列伝』(祥伝社)という本でも、カエサルのことをいろいろ書いています。


●「ブルートゥス、お前もか」の真意


 先ほど、スッラは敵に対しては徹底的にやっつけたということを話しましたが、カエサルはそうではありません。カエサルも、徹底的に抵抗する人間に対しては、容赦なくかなり危ない手段を使いますが、恭順の意を示せば彼はむしろすぐに許す。つまり寛容の精神で臨んでいくのが、カエサルのスタイルです。

 彼が暗殺された時の、「ブルートゥス、お前もか」(Et tu, Brute?)という有名なせりふがありますね。実は彼は、ブルートゥスを何度も許しているのです。ブルートゥスはポンペイウス側に付いた人間です。ブルートゥス自身、カエサルには何度も許されているということが分かっているのですが、「カエサルは独裁者になりそうだ。危険な人物だ」ということで、彼は共和政を守るために、最終的にカエサル暗殺のリーダーの1人になったわけです。カエサルがあのセリフを言ったのは、結局「あれほど許してやったのに、お前はまだここで俺を殺すことになるのか」という意味が込められています。

 そこにありますように、カエサルという人物は、長身でおしゃれで、服も非常に粋に着こなしていました。派手なところがあるし、そういうことで人を引き付けてやまなかった。さらに彼は、非常に警句にあふれた語句、語調を使い、弁舌も爽やかです。そして借財を厭わなかった。彼は、借金の天才だと言われています。借金をして、今度はそれを大盤振る舞いに使うわけです。それで民衆や部下たちを引き付けていった。借金して、ではどうやって返すのか。戦争です。ガリア戦争に出掛けた理由の一つは、結局、それを返すためです。戦争に行って、戦利品を奪ってくる。

 また、借金したり借金の保証人になったりしてくれたのは、大体クラッススです。クラッススは大金持ちですから。だけど、お金を貸してくれたり保証人になってくれたりしたのは、カエサルにそれだけの魅力や才能があったからです。結局、誰だって損はしたくないわけだから、「カエサルなら、いずれ、いろいろな形で返してくれるだろう」という見通しがあった。だから、カエサルに貸したり、あるいは保証人になったりしているわけです。


●「人間は信じたいものを信じる」というカエサルの警句


 ポンペイウスとカエサルとの対立は、すなわち民衆派と貴族派の対立です。最終的に、ローマの500年の共和政の中で、共和政を守ろうとする人たちと、反対にもう新しい時代が来ているというカエサル一派との大きな争いになった時に、共和政を守る側の統領として出てきたのが、先ほどから出てくるポンペイウスなのです。

 この時、どっちつかずの連中が出てきます。例えば代表的なのは、キケロです。キケロのような...
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