●トランプ政権は極端な身内主義である
さて、次にトランプ政権の編成について見ていきましょう。ドナルド・トランプ政権の政権移行チームは、極端な身内主義です。選挙戦中の側近だった人たち、例えばトランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏、デマゴーグのスティーブ・バノン氏、そして、軍人で極端な主張をするマイケル・フリン氏です。彼らを一番身近に置いています。そして、副大統領はマイク・ペンス氏です。彼はインディアナ州知事だった人です。大統領首席補佐官には、共和党の全国委員長であるラインス・プリーバス氏が就きました。彼は若手ですが、妥当な人選でしょう。
ホワイトハウスのスタッフは非常に重要です。ホワイトハウスの中では、大統領執務室の隣に、一番大統領と近い補佐官に割り当てられる部屋があります。トランプ氏はそこに娘婿のクシュナー氏を置いています。さらにその隣にはバノン氏の部屋があります。バノン氏は、トランプ大統領は新しい大統領であり、既存の勢力を全部壊さねばならない、と主張し、アメリカという国の統治体制を破壊するのが私の主義だ、というような無茶苦茶ことを言っているのです。トランプ氏はバノン氏の主張にすっかりとらわれています。
●ナバロ氏は経済学のいろはを分かっていない
さらに、ピーター・ナバロ氏というカリフォルニア大学の経済学教授が通商政策のトップに就きました。彼は一応、ハーバード大学出身の経済学者らしいのですが、それが私には信じられません。ナバロ氏によれば、貿易の不均衡は二国間で決まる以上、アメリカが赤字になっているのは通商相手のせいだ、と言うのです。ナバロ氏はそのように決め付けていますが、経済学のいろはが分かっていません。
貿易というのは、マクロ経済のバランスで決まります。投資と貯蓄のバランスです。アメリカ人はあまり貯蓄しないといわれており、そうであれば投資はできません。そうすると生産性が下がり、競争力が弱まります。そのため、中国や他の国に貿易で負けるのです。これは、相手国が不公正かどうか、ということとは関係ありません。ところが、ナバロ氏はそういうことを平気で言い募り、「もしアメリカと中国が戦争したらどうなるか」といった内容の本(『米中もし戦わば』)を書いています。
国家経済会議は、ゴールドマン・サックスの社長である、ゲーリー・コーン氏が委員長を務めます。さらに、USTR(アメリカ合衆国通商代表部)の代表は、ロバート・ライトハイザー氏が就きました。彼はレーガン時代の次席代表で、少し過激ですが、(人選としては)妥当といえます。
●マクマスター氏がバノン氏を国家安全保障委員会から下ろさせた
大統領補佐官(国家安全保障問題担当)には、マイケル・フリン氏が就いていました。彼は退役陸軍の将軍で、とにかく過激な人です。クリーブランドで行われた共和党大会で、大声で叫んだことで有名になりました。彼はそこでヒラリー氏に対して“lock her up.”と言ったのです。日本語で意訳すると、「監獄にたたき込めばいいんだ」ということです。このような言葉を後になってトランプ氏も使いました。
ところがフリン氏は、(2017年)2月13日に補佐官を解雇されます。ロシアと不透明な相談をし、それを大統領に報告しなかったという、いわゆる忠実義務違反です。後任には、陸軍中将のハーバート・マクマスター氏が任命されました。彼は現役の方で、比較的まともです。トランプ氏はスティーブン・バノン氏を国家安全保障委員会の常任メンバーに任命したのですが、マクマスター氏が忠言して、下ろさせました。バノン氏をメンバーに入れるのは危険なことだ、というわけです。このように、ホワイトハウスのチームはすったもんだしています。
●内閣はほとんどビジネスマンと軍人
閣僚はほとんどがビジネスマンと軍人です。最も重要なポジションである国務長官には、レックス・ティラーソン氏が就任しました。エクソンモービルという、世界中に会社を持っている大変な大企業の社長で、立派な人ですが、政治経験は全くありません。
商務長官のウィルバー・ロス氏は、ロスチャイルドと関係のある投資家で、ビジネスでは大変実力のある人です。実は知日派で、ジャパン・ソサエティーの会長も務めました。彼は自由貿易派だったのですが、商務長官に就いた途端、忠実な保護主義派になってしまいました。困ったものです。
国防長官はジェームズ・マティス氏です。彼は元海兵隊大将で、中央軍司令官も務めました。彼はマッド・ドッグ(狂犬)と言われて評判は悪いのですが、実は非常にまともな人です。海兵隊では絶大な信用を集めていました。また、大量の蔵書があり、読書家で求道者ともいわれています。読書をして思索を巡らすのに忙しく、結婚する暇がなくずっと独身...