●他に代え難い原子炉ロボット
今回は、遠隔操縦ロボットの一つである、原子炉ロボットについてお話しします。海中ロボットを研究している私が、どうして原子炉ロボットに関係するのかは、おいおいお分かりになるかと思います。
前から申し上げているように、ロボットを語るときには、ロボットの働く環境やロボットが成し遂げるべき作業、そしてロボットが他のものに代え難いかどうか、ということを語らなければいけません。最後の「他に代え難い」という点が、原子炉に関係します。
●福島第一原発の事故
ご存知のように、津波によって福島第一原発には多くの問題が生じました。原子炉格納容器およびサプレッションチェンバーは、水に浸かってしまいました。水に浸かった内部は、どうなっているのか。これを調べるには、水中ロボットや水に関係したロボットが必要です。そのために遠隔操縦用ロボットがつくられているのですが、私は遠隔操縦用の水上ロボットで漏水調査をしました。これは海底を調査するROVに似たところがあります。
これは沖合から見たところの福島第一原発です。2年ほど前に撮った写真ですが、ここで一体どういうことが起こっているのか、海では何がどういう状況になっているか、ということを調べる必要があります。
●高校生の時に六甲山に誓ったこと
今日はこのロボットの話をするのですが、その前に話しておかなければいけないことがあります。私の主義主張に関することです。この写真は六甲山系です。震災が20年くらい前に起きました。私の実家は六甲山のふもとにある夙川で、灘中学・高校を卒業しました。その私、浦環は高校生の時に、六甲山に誓ったことが2つあります。多感な高校生だったのです。何を六甲山に誓ったか。ゴルフをしないこと、原子力と環境には手を出さないこと、これです。神様に誓うのではなくて、六甲山に誓うということが重要です。私はいつも六甲山を見ていたのですから。
なぜゴルフをしないか。六甲山頂上を目指して、住吉川をさかのぼって歩いていくと、日本で最古のゴルフ場にばったりと行き当たります。せっかく六甲山の雑木林を一生懸命登ってきたのに、ばったりゴルフ場のフェンスに出会うわけです。フェンスを越えて向こうには行けませんから、フェンスに沿って迂回してまた頂上に向かう。「なんやこれは、なんでこんな所に勝手にゴルフ場を造って、せっかく楽しく六甲山を歩いているのに! もうゴルフなんか絶対にするもんか!」と思いました。それでゴルフをしないことにして、いまだにしていません。人に「ゴルフをしないのか」と聞かれても、「いや、私は六甲山に誓ったんだよ」と言えば、「ああそうか」、「何だそれ?」と言って終わってしまいます。
もう一つ、山を歩きながら誓ったことがあります。原子力と環境には手を染めないということです。これはどういうことか。私はもちろんエンジニアというか、サイエンティストというか、理科系を目指していましたから、当時原子力あるいは環境問題、環境科学は非常に重要な学問分野だと知っていました。しかし、多感な高校生の頃にいろいろと勉強していると、この2つは実は科学ではあるものの、社会とあまりにも複雑に絡まり合っていて、科学そのものが純粋な形で目に見えてこないと分かってきました。非常にややこしい問題を山のように含んでいると、高校生ながらに思ったのです。
●福島第一から海に流れた放射能
そこでこれらには手を出さない、関係しないとずっと心に決めてきたのですが、2011年、ついにこれに携わらなければならない状況になってしまいました。大変残念です。しかし自分が東京大学教授としてやってきたことで、そのことに関して、何らかのコントリビューションをせねばならないと思ったのです。
これが最初の言い訳です。六甲山に誓ったことを、原子力と環境に関して破るという、重大な決意をしたわけです。それくらい一生懸命考えているということです。笑いごとではありませんね。
考えるべき問題は、福島第一原発から海に出た放射能は、どれくらいの量が、そしてどのようなものが、海の中にたまっていったのかということです。これは、魚が放射能を帯びて食べられないという、社会問題に関わっています。実際、福島県はいまだに漁業規制をしています。こうしたことが起きていますが、それでは、海に出た放射性物質は誰がどうやってきちんと調べているのでしょうか。放射性物質の多くは海底に沈んでいて、その泥の中に放射能がたまっています。そこで、海底の世界のエンジニアリングの出番です。私がやらなければならない重要なテーマです。
●無人ロボットによる海水の調査
今は、海水は汚染されていません。しかし、F1(福島第一原発)の事故が起こった時には、海水も非常に汚染...