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「共和政」という建前を保持したオクタウィアヌス

ローマ帝国皇帝物語(2)プリンケプス・オクタウィアヌス

本村凌二
早稲田大学国際教養学部特任教授/東京大学名誉教授/博士(文学)
情報・テキスト
オクタウィアヌス
早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏による古代ローマ史連続講義。アクティウムの海戦で事実上、ローマ全域の支配権を手にしたオクタウィアヌスだが、慎重派の彼は容易にローマ第一の支配者の顔を見せようとはしなかった。終身独裁官宣就任がその後のカエサルの運命を左右したことをよく理解していたからだ。では、彼が進んで用いた称号とは一体どのような意味を持っていたのだろうか?(全8話中第2話)
時間:06:48
収録日:2017/06/16
追加日:2017/07/27
≪全文≫

●共和政の建前にこだわった慎重派オクタウィアヌス


 オクタウィアヌスに全権が帰されるといっても、ローマ社会には前々からいっているように共和政の伝統が強い、つまり単独の支配者になるということに懸念を持たれてしまうのです。周りからそういう疑惑を持たれると、カエサルのような世界史上まれに見る優れた人物であっても、結局殺されてしまうわけです。スエトニウスという歴史家は、「カエサルは、結局殺されてしかるべき人物だった。あれだけの大改革をやってしまうと、どこかで反感、ひずみが出てくるのは当然のことだ」と、そういう評価を下しています。恐らく、その評価は当たっていないわけではないと思います。

 しかし、とにかく大変に為政者、あるいはリーダーとして有能な人物だったそのカエサルすら、結局暗殺されてしまうということになったわけですから、オクタウィアヌスは、やはり、その後の進め方を、非常に慎重にやっていきます。つまり、共和政という建前を基本的には取っていきますが、言い換えるなら共和政というオブラートの中にローマの国家の体制を包み込んでいく、そうしたシステムを取っていくことになるのです。


●元老院を尊重した「最高指揮権保持者」オクタウィアヌス


 共和政の体制を包み込むというのはどういうことか。具体的にいいますと、要するに、元老院を尊重するということです。第1回三頭政治では元老院を無視したといいますか、クラッスス、ポンペイウス、それからカエサル、特に最後にカエサルは元老院の意向をかなり軽んじたところがありました。やはり、オクタウィアヌスはその轍を踏まないよう注意したのです。われわれは、オクタウィアヌスをいわゆる「初代皇帝(アウグストゥス)」というように、皇帝という名前を付けますけれども、皇帝という名称はこの時代には全くありませんでした。

 後に、オクタウィアヌスが亡くなった時の称号が、インペラトール・カエサル・ディーウィー・フィーリウス・アウグストゥス・ポンティフェクス・マクシムス、云々…という長ったらしいものがあるのです。一番最初の「インペラトール」はどういう意味かというと、最高指揮権保持者という意味です。このインペラトールという言葉が一番最初にありますし、長ったらしい称号をいちいち言っているわけではなく、いわゆる皇帝に当たる人物を「インペラトール」と呼び掛けるようになりました。それで、インペラトールがやがて「エンペラー」の語源となり、皇帝という意味を持ってくるわけです。ラテン語のもともとの意味としては、「最高指揮権保持者」という意味だったのです。


●称号は「市民の第一人者・プリンケプス」


 そのような状況の中で、オクタウィアヌスは、「あくまでも(自分は)共和政を守る」として、自分がもし人よりも勝るところがあるとするならば、それは自分がローマ市民として第1の名簿にくるということだと考えます。ローマ市民の第一人者という意味のことを「プリンケプス」と呼びます。その後、何度も独裁官の称号といったものを、元老院や民衆の決議の中でアウグストゥスに与えようとするのですが、それを全部、彼は断ります。

 なお、先ほどからオクタウィアヌスとアウグストゥスを混乱して使っているように見えますけれども、それは、紀元前31年にアクティウムの海戦でオクタウィアヌスが勝利を収めた4年後の紀元前27年、元老院が(「アウグストゥス(尊厳なる者)」という称号をはじめ、)さまざまな栄誉、権威を彼に与えたことによります。彼は表向きには、例えば独裁官であるとか、コンスル(執政官)であるとか、そういったものを一時的にもらうけれども、それを終身的なことにはしなかったのです。そういう形で、自分が単独の支配者であるということを、一見しただけでは分からないようにします。そういう工夫を凝らしていって、あくまでも自分は「プリンケプスなのだ。第一人者なのだ。あるいは元首であって、皇帝、または王様(レクス、キング)ではない」ということを、彼は建前上取っていくのです。
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