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ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの人柄と有能な側近

ローマ帝国皇帝物語(4)側近アグリッパとマエケナス

本村凌二
早稲田大学国際教養学部特任教授/東京大学名誉教授/博士(文学)
情報・テキスト
『皇帝アウグストゥスに諸芸術を示すマエケナス』
(イタリア人画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作、1745年)
ローマ帝国の実権を実質的に握ったアウグストゥスは、文武両面で有能な側近にも恵まれていた。そうした側近たちがついてきたのは、アウグストゥスという人物のある特徴ゆえだ、と早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏は言う。(全8話中第4話)
時間:08:38
収録日:2017/06/16
追加日:2017/08/10
≪全文≫

●公私の使い分けがうまかったアウグストゥス


 アウグストゥスは、30代になった頃から実権を握ります。アウグストゥスは、いわゆる建前上の発言として、あくまでも自分は権力において他の人と同じだと言ってきましたが、実際に実権を握っていたのは彼でした。

 アウグストゥスという人物が非常に面白いのは、公私の使い分けが非常にうまいということです。彼は、公人としての立場と私人としての立場をわきまえているのです。公人としては、ある種実利的で、徹底的に合理的であり、ある意味では非常に厳しく、あるいは冷静で、場合によっては非常に冷たいところがありました。一方、私人としては、非常に温情があり、周りにそれほど波風を立てないところがあります。


●2人の優れた側近がアウグストゥスを支える


 だから、彼には側近に有能な人物が就くわけです。その1人が、先ほどから話に出てきているアグリッパです。彼は、軍事面においてアウグストゥスを補佐します。もう1人は、文政面、民政面におけるマエケナスという人物です。ローマの身分制には、元老院身分とその下に騎士身分があるのですが、この人は、何度要請されても「自分は騎士身分のままでいい」と言って、元老院身分には就きませんでした。

 マエケナスには、そうしたある意味で奥ゆかしい一面がありました。一方で彼は、周りに詩人や文人たちを集めていました。例えば、アウグストゥスの時代にはウェルギリウスという大詩人がいたのですが、彼の著作には国民的な詩となった『アエネーイス』があります。これは建国叙事詩といって、アエネアースという人物がトロイアから落ち延びてきてローマ建国の祖となったのですが、500年ほど後にその血筋の中からロムルスとレムスの双子の兄弟が生まれるという話です。こうした建国叙事詩に対して、抒情詩的な面で活躍したのがホラティウスといった人物でした。マエケナスはこうした詩人、文人たちを自分の周りに集めていたのです。

 やっと安定したローマ国家がこれから世界に名だたる帝国として、自分たちの威容を知らしめるためには、ローマ国家をたたえるようなさまざまな詩が必要と考えました。それには広報担当といっていいほどのそういった詩人、文人たちが必要だということで、ヴェルギリウスやホラティウスらを周りに集め、彼らに対して、非常に多くの財政的援助をするわけです。

 現在、文化・芸術・学問に対する援助活動を「メセナ」と呼びますが、「メセナ」はマエケナスから来ています。マエケナスのフランス語読みが「メセナ」という言葉なのです。それだけ、文芸・学問というものに秀でた人たちを援助するというシステムを、最初につくったわけです。ローマ帝国が出来上がっていく過程において、一方ではアグリッパが軍事面でアウグストゥスを補佐し、民政面、文政面ではマエケナスがアウグストゥスを補佐するということで、非常にバランスのいい形を取っていたのです。


●オクタビアヌスの厳しさと温かさを語るエピソード


 そういう中で、アウグストゥスが公私の使い分けを非常によくやっていたということについて、さまざまなエピソードが残っています。例えば、奴隷たちや自分の部下たちの処分に対してです。自分の従者の1人と森を散歩している時、イノシシか何かが出てきてしまい、そのイノシシに驚いた従者の1人が、事もあろうにアウグストゥスを突き飛ばして、自分が逃げてしまったというのです。しかし、アウグストゥスはこれを「あいつはびっくりして、俺を突き飛ばしたんだ」という感じで、ただ笑い飛ばすだけで済ましてしまったそうです。

 そうした非常に温情がある反面、逆に、自分の側近の解放奴隷(従者)が元老院議員身分の女性と姦通事件を起こした時には、この男の足を切断するというようなことも行っています。つまり、そういう公の部分で秩序を破った人間に対しては、非常に厳しい態度を取るのです。しかし、単にプライベートで散歩しているときに、誤って自分を突き飛ばしたりする者がいても笑って済ませるということで、彼はそうした非常にはっきりしたところを持っていた人物だったということです。
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