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LGBT問題の地域格差と日本の現状

LGBT生徒へのいじめと排除(1)実態調査で分かったこと

土井香苗
国際 NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
情報・テキスト
調査報告書
『「出る杭(くい)は打たれる」日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』
国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏が、日本の学校でのLGBTの生徒たちのいじめや排除に関する現状を、調査結果を踏まえ解説する。LGBTの子どもたちへのいじめの実態はほぼ予想通りではあったが、調査ではより衝撃的な「先生の加担」という事実も明らかになった。土井氏はこうしたいじめの根本には政策、制度の不在があると指摘する。(全3話中第1話)
時間:11:10
収録日:2017/07/12
追加日:2017/08/01
カテゴリー:
タグ:
≪全文≫

●ヒューマン・ライツ・ウォッチの活動について


 国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの日本の代表をしている土井と申します。ヒューマン・ライツ・ウォッチはニューヨークに本部がある国際的な人権のNGOで、世界二大人権団体の一つになります。世界90カ国で幅広い人権の問題を調査しています。

その中の一つが、今日取り上げたいLGBTと呼ばれている性的なマイノリティの人たちの権利ということになります。ただヒューマン・ライツ・ウォッチはLGBTの権利だけではなく、女性、子ども、障害者、難民、そういった弱い立場にある人たちの人権を守るという仕事をしています。それ以外にも戦争の中で民間人を守るという仕事、あるいは独裁政権下での人権抑圧、例えば政治的な弾圧から市民的な権利を守るなど、本当に幅広い活動をしています。


●LGBTに対する深刻な人権侵害


 その中で、ヒューマン・ライツ・ウォッチがLGBTの権利に焦点の一つを当てている理由としては、当然、日本を含め世界中で性的なマイノリティであるLGBTの人たちが差別や暴力といったものにさらされているということがあります。それに加えて、世界には約200カ国ありますけれども、そのうちの80カ国ほどで性的なマイノリティが刑事処罰の対象になっているということがあります。同性愛行為が、時には死刑が適用される犯罪となっている国もあります。そういった同性愛者が刑罰の対象になっていることなどを反映して、社会の中でLGBTの人たちに対する嫌悪感、それをホモフォビアなどと呼びますけれども、そういったホモフォビアが非常に強く、その結果、差別、暴力、ひいては殺人などの被害に遭ってしまう。そういった事例も、世界の中では残念ながら少なからず見られます。

 そのような非常に深刻な人権侵害を引き起こしているということがありますので、グローバルな人権団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチにとってLGBTの権利は、非常に重要な分野の一つになっています。


●地域格差の大きいLGBT問題と日本の現状


 一方で、日本ではまだなじみがないのですが、同性の間での結婚を認めるような国も出てきています。15年以上前(2000年)に初めてオランダで同性婚が認められました。日本などでは結婚できるのは基本的にまだ異性間だけになっています。こういった異性愛者だけに限られた制度ではなく、全ての人に開放しようということで、同性婚がオランダで初めて導入されてからまだ15年ほどしかたっていないのですが、今では世界20数の国々で同性婚が認められているという状況になってきています。

 そういった国々と比べると、やはり日本は一方では遅れているとも言えます。しかし、もちろん同性愛者が刑罰の対象になったりしているわけではありませんので、そういった意味では人権侵害の深刻な国と比べますと状況がいいとも言えます。

 このようにLGBTの問題は、世界中あるいは地域の中で非常に格差が大きいイシューになっていると思っています。


●LGBTへの関心、意識は大きく変化してきた


 ヒューマン・ライツ・ウォッチとしては、日本の中でもLGBTの人たちの権利を守る活動を長年続けてきました。ヒューマン・ライツ・ウォッチの東京事務所は8年前にできたのですが、設立の当初からLGBTの人たちの人権問題に関心を払ってきました。8年ほど前の状況と比べますと、今は本当にLGBTの人たちに対する関心が非常に高まったなと感じています。

 当初はLGBTという言葉そのものも全く浸透しておらず、このような話をする際にも必ず、「Lとは何でGとは何で、Bとは何でTとは何」というところから始めなくてはなりませんでした。しかし、今では多くの人たちがLGBTという言葉くらいは聞いたことがあるという状況になっています。渋谷区での同性パートナーシップ制度の導入などをきっかけにして、若い世代に限らず一般的な日本の社会の中でも同性カップルというものを受け入れるという雰囲気が、随分生まれてきたと思います。

 そういった意味では非常に前進しているイシューかなとも思いますが、特に8年ほど前を思い起こせば、本当にLGBTということに日が当たっていませんでした。ほとんどの人がそういった問題が存在していることさえ関心を払っておらず、メディアではもちろんのこと政治的にも全く議論の対象になっていないという状況だったのです。


●LGBT生徒へのいじめの理由の一つは政策、制度の不在


 そういった中で、ヒューマン・ライツ・ウォッチとして昨年(2016年)、ある調査結果を公表しました。こちらがその調査報告書で、『「出る杭(くい)は打たれる」日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』という調査報告書になります。こちらはヒューマン・ライツ・ウォッチが2年ほど前から日本全国で約半年間、LGBTの子どもたちを中心に、先生や親...
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