●10時間で金融学の基礎が学べる教科書
今回は、私の新しい本『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)が発売になりましたので、ちょっとした宣伝をさせていただきたいと思います。ポイントの1つは、もちろん金融に関する教科書であるということです。それから、「大学4年間」とありますように、主に初心者向けとして高校生程度の知識があれば読める教科書というつもりで書きました。また、帯に「東大で学ぶ」とありますが、私が東大で数十年間教えてきた講義、あるいはゼミでの教材等をベースに書き上げた教科書ということになっています。
●3つの切り口でバランスよく金融学を解説
では、この本の狙いをお話しして、それから内容についてご紹介してみたいと思います。狙いとしては、金融に関する経済学は大まかに3つの分野に分かれますが、それをバランス良く取り入れたということです。
1つは「ミクロの金融」とよくいうのですが、典型的には銀行のような組織はなぜ存在して、どういうことを考えて、どういうことをするのか、それに伴ってどういう問題が起こるのかという話をきちんとやるという分野です。それから、もう1つは「マクロの金融」といったりしますが、銀行や家計・企業、これらが独自の原理で行動するときに、経済全体としてどういう金融現象が起こるかということを見る分野です。典型的には、インフレ率がどのように決まって、どのように動いていくのか、それを中央銀行が制御するにはどうしたらいいのか、あるいはさらに、そうした話はグローバルにどのようにつながっているのかという側面です。
それから、ミクロ・マクロの金融のどちらにも関係しますが、資産価格がどのように決まるのかという点をかなり厳密に分析したり、あるいはそれに基づいてつくられている金融商品、派生商品等がどのように利用できるのかということを勉強する分野として「ファイナンス入門」があります。これら3つの分野を全体的にカバーする教科書になっています。
●基礎理論に加えて、経験に基づいた最前線の話題も豊富
この本の別の面からの特徴ということでいえば、今申し上げたような3つの分野の基礎理論だけでなく、現在最先端で活躍されている金融関係者が念頭に置いているような話題をなるべく豊富に取り入れて解説したことです。
その際、手前みそになりますが、単純に学者的な観点だけでなく、私の経験、すなわち日本銀行で政策委員会審議委員という役割で政策を決めたり、あるいは公的な年金を運用するという法人の運用委員会に入っていたりと、いろいろと現場に近いところを見てきましたので、その経験も生かしつつ現代のテーマについて解説したという点が特徴です。
●第1章-金融基本用語解説から話題の長期停滞論まで
本の内容を3つの部分に分けて簡単にご紹介してみます。まず、入門的なところですが、金融の3つの分野について基本的な用語を解説しています。インフレーションとは何か。それがどうして悪いのか。あるいは利子率とはどういうものなのか。金融機関が行うリスクの変換、投資家の行うリスクの分散とは何なのか。レバレッジとはどういう概念か。その他、銀行にまつわるいろいろな話です。こうした基礎的なことを解説したり、あるいはそうした中で、現在どこでも出てくる長期停滞論とはどういう考え方で、データ的にはどういうことが起こっているのかというトピックも混ぜてあります。
●第2章-入門~応用レベルまで学べるファイナンス用語
それからファイナンスのところでは、ファイナンスの標準的な概念について、利回りから始めて、リスク、リターンの関係、それをつなぐものがリスク・プレミアムですが、それらを説明しています。また、金融を学ぶ人なら誰でも知っていなくてはいけない割引現在価値という概念、短期金利と長期金利の関係、株価がどう決まるのか、少し応用的な話になりますが、最近よく言われるパッシブ運用とアクティブ運用はどういう違いがあるのか、証券会社、あるいは投資家が結果的に実行するマーケットメーキングとはどういう機能か、ということが解説されます。
●効率的市場仮説を学び、「投機」の正しい知識を得る
そういう中で、トピック的には少し理論的な話になりますが、ファイナンスで必ず出てくる話に効率的市場仮説があります。これはどんなに自分が経済理論、ファイナンスを勉強しても、あるいはデータを集めても、市場平均以上にはもうかることがないという仮説です。それを説明した上で、それが成立していないようにも見える部分もあるのだけれども、どういうことなのかという話をしています。あるいは企業の方々が派生商品を用いてリスクを減らす、リスクをヘッジするというようなことをよくされますが、それは本当に意味があるのか、と...