●トランプ陣営からロシア側への働き掛けがあったのか
現政権が抱える重大な懸念事項が、もう一つあります。俗に言われる、ロシアゲート疑惑です。国家安全保障担当大統領補佐官であったマイケル・フリン氏は、プーチン政権要人と親交があり、ロシアで高額の講演料を得ていました。政権発足前に、ロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使と制裁問題で密約を結んでいたことが発覚し、フリン氏は2月13日に辞任します。また、ジェフ・セッションズ司法長官も、選挙中に同大使と2度接触し、議会公聴会でそれを否定する発言をしていたことから、窮地に追い込まれました。
ロシアゲート疑惑で最大の焦点は、ドナルド・トランプ陣営が選挙期間中にロシア側と接触し、ヒラリー・クリントン陣営へのサイバー攻撃を依頼していたのではないか、という疑惑です。大統領選挙にロシアが仕掛けた情報戦については、米情報機関が1月に報告しています。詳細は、テンミニッツTVで東秀敏氏(American Security Project エネルギー安全保障プログラム・ジュニアフェロー)が説明しました。
一方、トランプ陣営も、ソーシャルメディアを最大限に活用したデジタル戦略を採用し、選挙戦を優位に展開しました。ロシアが仕掛けた情報戦も、トランプ陣営の仕掛けたソーシャルメディア戦も、主たる戦場はサイバー空間です。クリントン陣営は、サイバー空間でトランプ陣営に敗北したわけです。しかし今回の疑惑は、先程述べた事実がロシアの情報戦とトランプ陣営のデジタル戦略の意図せぬ相乗効果、偶然であったのか、それとも、トランプ陣営からロシア側への働き掛け、もしくは共謀、故意であったのかが焦点です。
●コミー長官の解任劇の結果、モラー特別検察官が誕生した
こうした疑惑に対して、トランプ政権はいわゆるオバマゲートを創り出して、ロシアゲートの封印を図るという動きに出ました。3月4日、トランプ大統領は、バラク・オバマ前大統領がトランプタワーを盗聴したとツイートすると、翌日には、ショーン・スパイサー報道官を通じて、2016年に大統領の国内監視権限が乱用されたか、議会情報委員会に速やかな調査を依頼することを発表しました。
ところが、これが裏目に出てしまいます。3月20日、当時FBI長官であったジェームズ・コミー氏は、下院の情報特別委員会で行われた、ロシアの大統領選挙干渉問題に関する公聴会に出席します。3時間の予定が、5時間半に及ぶという異例の長さになった公聴会で、コミー氏は、2つのことを証言しました。第1に、FBIはトランプ氏の参謀とロシアの関係を2016年7月以来捜査しているということ、第2に、オバマ大統領によるトランプタワー盗聴の事実はないということです。
さらにコミー長官は、ロシアゲートに関する捜査の意義について、こう述べています。「アメリカは真に丘の上に輝く街だと、私は信じている。時に混乱もあるが、アメリカが世界で輝いているのは、自由で公正な素晴らしい民主主義と、それを支える選挙制度があるからだ。したがって、外国が民主的なアメリカの選挙に干渉し、破壊し、汚すのは、とても深刻な問題だ。これはアメリカの存在を脅かす行為である。それゆえ、外国によるアメリカの干渉に、アメリカ人が加担しているのであれば、これほど重大な事態はない。FBIはこのために誰が何をしたのかを解明しようとしている」。コミー長官は、このように捜査に対する並々ならぬ決意を表明したわけですが、ご存じのとおり、その後、トランプ大統領から突然、解任されてしまいました。
これは、トランプ党と戦闘状態にある反トランプ勢力を勢いづかせるには、十分なスキャンダルです。民主党は事案発生当初から、特別検察官を設置し、徹底的な事実究明を主張していました。当時は、多数派である共和党の賛同が得られなかったのですが、コミー長官の突然の解任劇の結果、ロバート・モラー特別検察官が誕生したのです。
●ワシントンの政治の停滞はしばらく続く
以上をまとめましょう。オバマケア改廃法案については、トランプ政権の議会対策の未熟さが露呈しました。その結果、政権の議会対策担当であるラインス・プリーバス補佐官と、法案策定責任者であるポール・ライアン下院議長は、影響力が低下しています。さらに、同法案成立による財源を前提としていた、各種の政策が停滞し、新たな財源を確保するなど、政策の見直しが余儀なくされています。
次に、ロシアゲート問題ですが、これは現在進行中です。シナリオとしては、政権主要幹部の辞任で済むのか、あるいは大統領へ波及して弾劾、または辞任となるのか、全く予断を許さない状況です。ただし、FBIや特別検察官による捜査は、年単位以上の時間が必要でしょう。今すぐ弾劾や辞任に結びつく可能性は、低いと考えられます。しかし、ある下院民主党議...