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意外な行政手腕を発揮した4代皇帝クラウディウスの弱点

ユリウス・クラウディウス家のローマ皇帝(3)弟の弱点

本村凌二
早稲田大学国際教養学部特任教授/東京大学名誉教授/博士(文学)
情報・テキスト
クラウディウス
早稲田大学国際教養学部特任教授の本村凌二氏が、ローマ帝国初期ユリウス・クラウディウス家の5人の皇帝を中心に古代ローマ史を解説。3代皇帝カリグラが暗殺され、かつぎ出されたのはゲルマニクスの弟、クラウディウスだった。彼は前評判こそあまり良くなかったが、皇帝として優れた行政手腕を発揮する。しかし、彼には弱点があった。(全6話中第3話)
時間:14:00
収録日:2017/08/07
追加日:2017/09/14
≪全文≫

●4代皇帝は見劣りのするクラウディウス


 カリグラの暗殺の後に登場してくるのが、何とゲルマニクスの弟に当たるクラウディウスです。それくらいゲルマニクスに対する期待があったのかもしれません。ただクラウディウスという人は、お兄さんほどには見かけも良くありませんでした。今われわれが彫像で見るものはそれなりに理想化されていますが、伝えられている文献でいえば、非常に良くなく、特に女性からあまり評判が良くありませんでした。大体自分の祖母や母親、それから妹たちからも何となく好ましからざる子どもみたいに扱われていたところがあるのです。その中にあって、クラウディウスは自分に対して唯一、非常に優しい兄であったゲルマニクスを非常に尊敬していたのです。そういう伝説が残っているぐらいゲルマニクスという人のいろいろないい面があり、それが民衆に伝わっていたので、結局、その弟のクラウディウスが引っ張り出されて、皇帝になったわけです。

 クラウディウスは、それまで宮廷でゲルマニクスの息の掛かった人間が非常に危険な目に遭って、処刑されたり暗殺されたりということがあったため、一説によれば、わざと愚鈍で目立った性格ではないように演技をしていたのではないかという見方もされています。つまり、皇帝の位など狙いそうな器ではないと思わせることで、彼はむしろ生き延びてきたというのです。そんな中、ティベリウスが亡くなり、カリグラも殺されるということになって、結局誰もいないからということで彼が引っ張り出されて、皇帝になったのです。

 

●エトルリア・カルタゴ史研究から為政者へ-行政能力を発揮


 ところが、皇帝になってからのクラウディウスはある種、為政者としてかなりの行政担当能力を見せています。皇帝になるまで彼は何をやっていたかというと、表立って政治家・軍人としての功績などを挙げていれば、どんな疑いをかけられるか分からないということで、学業に専念していました。

 彼は、われわれが知らないエトルリア人、つまりローマ人の前にいたエトルリア人の歴史と、カルタゴ人の歴史も書いています。しかし、彼が書いたエトルリア史とカルタゴ史は、残念ながら全く残っていません。残っていないのは、結局大した作品ではなかったから残らなかったのではないかということです。それなりに優れた作品であれば、やはりそれは何十年、何百年と受け継がれて残っていくものです。ただ、実際に同時代人や後の時代の人にとって大した作品ではなくても、エトルリア史やカルタゴ史は同時代の人が書いているものはほとんどないわけですから、今のわれわれからすれば、もし残っていたらかなり貴重な史料になったと思います。

 そのようにして学業に専念していたクラウディウスが皇帝に引っ張り出されるわけですが、実際に行政を担当させるとそれなりの能力を発揮しました。アウグストゥスが始めたことの骨組みをティベリウスがつくり、そうした中でクラウディウスはいわば官僚制のシステムをかなり完成の域にまで持っていったのです。

 

●皇帝としての功績-官僚制システムの完成とブリタニア併合


 官僚制というものは、ある意味、皇帝がいなくてもローマ帝国の統治が可能であるというほどのもので、それが出来上がっていくという意味では事務官僚がきちんとしていたということです。ですから、そのシステムをきちんとつくり上げていったクラウディウスはある種、皇帝として優れた面を持っていたと思います。

 ただ彼は女性にだらしがありませんでした。その時代は同性愛とか、異性愛でもバイセクシャルというものが当たり前でしたが、クラウディウスは女性にしか全く興味がありませんでした。女性にしか全く興味ないというのは、ある意味では当たり前なのですが、極端に女性に対して目がなかったということで、型通り何人もの女性と結婚することになります。

 その前にお話ししておきたいのは、クラウディウスが皇帝として非常に大きな役割を果たしたのは属州ブリタニアの併合だということです。ブリタニアは今のイギリスのことです。第一話でもいいましたように、アウグストゥスは「ローマ帝国をもうこれ以上拡大するな」という方針でした。ブリタニアについてはカエサルがガリア遠征に行った時、短期間だけですがブリタニアに渡り、調査を行っています。よくウィンストン・チャーチル(第二次世界大戦時のイギリスの首相)も言っていることですが、ブリタニアが歴史的に文明に接したのはカエサルがやってきたからで、それまでは野蛮人の時代だった、ということです。それ以後、クラウディウスがやってきて、ローマ社会、そして地中海文明の中に完全な意味でブリタニアが併合されていくことになるのです。

 そのようにしてクラウディウスがブリタニアをも征服し属州化するということ...
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