●シリア「穏健な反体制派」へのCIA支援中止とその理由
皆さん、こんにちは。
今日は、前回のカタールとサウジアラビアとの断交の問題に引き続き、もう一つ大きな局面を迎えているシリアの現在の情勢とISの現状について語りたいと思います。
今年2017年7月にドナルド・トランプ大統領は、これまでCIAアメリカの中央情報局が提供してきたシリアのいわゆる「穏健な反体制派」に対する武器供与を中止すると語りました。つまり、訓練事業はもう終わったので、武器の供給ももはやしないと決定したのです。ただし、そこからクルド人兵力は除くということです。
これはなかなかに意味深長で、シリアにおける反体制派は「穏健な」とつけようと他に何をつけようとも、そのほとんどは何らかの形でスンナ派の過激派組織に結び付く、あるいはそことパイプを持っている組織なのです。つまりISというスンナ派の過激派組織をたたきつぶし、解体していくために、他の過激派組織を使い、そこを援助するという構図は、実はCIAは隠れて取っていたのですが、それはやはり面白くないというのが、トランプ大統領のある意味では正常な判断といえなくもないかと思います。
CIAは2013年に、いわゆる「穏健な反体制派」への支援を開始しましたが、2015年からロシア軍がシリアに直接介入していました。実は「穏健な反体制派」なるものはロシアから過激派、あるいは過激派に従属する存在にすぎないというレッテルを貼られていたのです。すなわち、「穏健な反体制派」といってもその内容、そして実際にはその力は非常に限られていて、そうしたところにいくら援助しても、アサド政権を放逐する可能性は限りなく少ないと、(支援自体が)疑問視されるに至ったわけです。
●対露協調路線で緊張緩和地域を拡大というトランプの意図
トランプ大統領の決定は、時系列で見ると非常に興味深く、この7月の決定は7月7日のロシアのプーチン大統領との会談に先立つ措置であったということです。すなわち、トランプ大統領はシリア問題に関して対露協調、つまりウラジーミル・プーチン大統領との協力、協調の下で解決しようと考えており、ロシアとの合意を通した緊張緩和地域、停戦地域を拡大して、実質的な実を取ろうというのが彼の構想なのです。
地図に輪を付けた部分がありますが、これが緊張緩和地域であり、ロシアとアメリカが実質的な合意を通して、停戦に関係者を踏み切らせた地域になっています。この輪を発展させていこう、拡大していこうというのが、トランプ大統領の考えていることなのです。
●ラッカとヌスラ戦線をつぶそうとしているシリア政府
シリア政府は今、3つの方向からISが占拠しているデルゾールと通称されるダイル・ザウル県に進撃する形勢を取っています。つまり、こちらの地図の3つの星が炸裂している地域、これが今お話ししたダイル・ザウルへ進撃する方向を示しているということです。なぜかというと、そこにはラッカがあるからです。このラッカを落とす、つまりISの拠点を落とすという非常に攻撃的な政策を取っているのです。
他方、もう一つ重要な拠点であるイドリブには、ヌスラ戦線、すなわちISに対決している別のスンナ派過激派組織があります。これは「(シリアの)アル=カーイダだ」と呼ばれており、アサド政府はこのヌスラ戦線もつぶそうとしているのですが、それはなかなかうまくいっていないということです。こうした反面、トランプ大統領はプーチン大統領と協調して、ダマスクス近郊で米露協調の緊張緩和地域を設置しようとしているというのが、動きの一つです。
●クルドのラッカ攻略停滞の理由-1.民主シリア軍の内部対立
2017年7月下旬くらいの段階では、ラッカの市内には2000人のIS戦闘員が蟠踞(ばんきょ)、つまり立てこもっているとされています。アメリカが支援しているクルド人の「民主シリア軍」の動きも今や停滞気味です。地図の黄色い部分がクルド人の居住地域で、この在シリア・クルド人が「民主シリア軍」の中心となってラッカに向かっているということです。
なぜ、これが停滞気味かというと、「民主シリア軍」というのは全部がクルド人ではないからです。そのクルド人と同時にスンナ派アラブ人の反体制勢力もいるわけですが、この武装勢力はクルド人の強大化、発展が面白くないと思っており、こうした対立が内部に生じています。その中からアラブ武装勢力の一部が離脱したということがあり、こうした動きがクルド人を中心とした「民主シリア軍」の動きを鈍らせているのです。
したがって、この政治状況は現在、反IS作戦の進行速度に大きな影響を与えており、ISをまだ最終的には解体しきれない、ということになっています。
●クルドのラッカ攻略停滞の理由-2.トルコ軍によるくさび
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