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財政再建のために必要となる消費税率とは?

日本の財政の未来(7)消費税は何パーセントにすべきか

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
財政安定化のためには、2017年時点で33パーセントの消費税が必要だという推計がある。債務累積のため、増税を先送りすれば、さらに税率を上げなくてはならなくなるだろう。法政大学経済学部教授の小黒一正氏によれば、2030年までに増税しない場合、100パーセント以上の消費税がなければ財政が持続不可能な事態に陥ってしまう。(全10話中第7話)
時間:10:05
収録日:2017/09/04
追加日:2017/10/08
カテゴリー:
≪全文≫

●消費税が33パーセントなければ財政は安定化しない


 今回は、財政再建を進める場合に、どれくらいの消費税率を確保しなければいけないのか、その一つの目安を説明します。

 このシリーズではこれまで、公債の負担や財政状況について見てきました。例えば、このスライドにも書いた通り、10年間で26兆円も社会保障費が伸びています。1年間で2.6兆円ずつ増加している計算になります。もし社会保障費を抑制しないのであれば、消費税の税率に換算して、毎年1パーセントずつ引き上げていかなければならない事態です。となると、10年間で消費税率を10パーセント、20年間で20パーセント引き上げなければならないという、類推が成り立ちます。

 ただし、最終的にどれくらい消費税率を引き上げなければいけないのかということは、国内外でもう少し精緻にシミュレーションされています。2017年に直ちに社会保障費の財源を賄うように、また借金の膨張が止まるように消費税を引き上げるとすれば、税率はどの程度必要なのでしょうか。アメリカの経済学者、Anton Braun氏とDouglas H. Joines氏の推計によれば、消費税率を33パーセントまで引き上げないと、日本の財政は安定しません。あるいは、東京オリンピック後の2022年に、一度に消費税率を引き上げるとするなら、37.5パーセントにまで引き上げる必要があります。

 2017年時点では消費税率は8パーセントですから、これを30パーセントまで、20パーセント強も一気に引き上げるということは、当然できません。しかし、一つの目安としてこうしたことが計算されています。


●財政再建を先送りすれば、毎年1パーセントの追加増税が必要


 2017年で33パーセント、2022年で37.5パーセントが必要ということですから、5年間増税を先送りにすると、およそ4.5パーセントも余分に消費税率を引き上げなければならなくなります。その理由としては、社会保障費の急増もありますが、一番大きいのは、やはり債務が累増していくからです。つまり、1年間財政再建を先送りすれば、毎年1パーセントずつ、追加で増税しなければならないことになるのです。こうした改革の遅延コスト、英語でいうdelay costが発生してしまいます。

 2パーセントのインフレが生じたケースでは、多少、引き上げなければならない税率が下がります。これはまさにアベノミクスが成功して、デフレを脱却し、機動的な2パーセントのインフレーションが実現できた場合です。この場合は、25.5パーセントの消費税率にとどまりますが、それでも20パーセントを超えてしまいます。日本の財政はこうした状況にあります。


●財政再建の限界は、2030年までだ


 もちろん現実には、なかなか一度に消費税率を引き上げるということはできません。消費税を引き上げようとすると、選挙に負けたり、政権の基盤が揺らいでしまうということが起こり得ます。したがって、増税や社会保障改革はどんどん先送りされる傾向があるでしょう。

 こうして、財政再建がどんどん先送りされた場合、どうなるのでしょうか。Braun氏とJonies氏が面白い計算をしています。消費税が30パーセントであれば、政治的にはまだ許容範囲でしょう。欧州の付加価値税は20パーセントから27パーセント程度です。他方、万が一、財政を再建するためには消費税率を100パーセントにまで引き上げなければならない、経済・財政状況になってしまったとしましょう。つまり、増税や歳出削減、あるいは成長戦略GDPを引き上げるといった普通の正攻法では、財政再建がもはや不可能になるような状況です。

 Braun氏とJonies氏はこうした状況が訪れる時期を、一つの目安として算出し、2つのケースを考えます。仮に消費税率5パーセントか、あるいは10パーセントとした場合の日本経済です。それぞれの経済状況で、増税も社会保障改革もしないとすれば、GDP比の債務残高はどんどん増えていきます。ある時点で、この膨張を抑制するためには、消費税率を100パーセントにまで引き上げる必要がある状態が訪れるでしょう。そのトリガーの発動をいつまで先送りできるのか、という計算です。

 消費税率が5パーセントの経済であれば、2028年まで先送りできます。この時点で消費税率を100パーセントにしなければ、それ以後は、消費税率をさらに110、120パーセントにまで引き上げないと、財政は持続可能ではなくなってしまいます。他方、消費税率を10パーセントにしていた場合、2032年まで先送りできます。


●大規模な改革を13年間で成し遂げることができるのか


 現在の日本経済は消費税率8パーセントですから、2つのケースの真ん中です。おそらく限界は2030年ぐらいでしょう。その時点になれば、消費税率を100パーセントに引き上げないと、通常の形では財政再建ができません。現在は2017年ですから、あと13年ありますが...
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