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日銀の国債買いオペはどんな国民負担を生むのか?

日本の財政の未来(10)日本銀行の国債買いオペ(後編)

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
日本銀行
法政大学経済学部教授の小黒一正氏が、日本銀行が国債を買い切ったとしても、なぜ国民負担なしに財政再建が不可能なのか、その理由を2回にわたって説明する(後編)。第2の理由は、もし国債の金利が正常化する中で、準備預金の金利を適切な水準まで引き上げなければ、それは私たちの預金の金利をカットしていることと同じになるからである。(全10話中第10話)
時間:07:40
収録日:2017/09/04
追加日:2017/10/10
ジャンル:
≪全文≫

●政府と日銀を一体として見れば、国債を買い増してもBSは同じ


 日本銀行が国債を買い切ったとしても、国民負担なしに財政再建はできない第2の理由についても説明します。左上の図表1と右上の図表2は、先ほどの第1の理由で説明したのとまったく同じ図です。今度は、政府と日本銀行を一緒にした場合に、国債の負担がどうなるのかを見てみましょう。図表1の政府部門と日本銀行のバランスシート(BS)を一緒にしたものが、左下にある図表4(1)という図になります。また、図表2の政府部門と日銀を一緒にしたものが、右下の図表4(2)です。

 異なってくる部分をカラーにして示しました。まず、図表4(1)を見てください。政府部門で800兆円の国債が発行されており、日本銀行がそのうちの400兆円分を持っています。したがって、政府と日本銀行を一緒のバランスシートで書けば、国債は400兆円になります。そして、この国債を民間銀行が資産として持っている状態です。

 日本銀行の負債は、国債400兆円に加えて、現金が100兆円、さらに民間銀行がいつでも引き出せるようにしている準備(当座預金)が250兆円あります。それゆえ、政府部門と日本銀行を一緒にしたバランスシートの負債の総額は750兆円です。また、政府部門と日銀の負債欄にある黄色、すなわち国債400兆円に対応するのは、民間銀行の資産欄に書かれた国債400兆円、そして、緑色の部分に対応するのは、民間銀行の資産欄に書かれた準備250兆円です。

 次に図表4(2)を見てください。この場合も、政府と日本銀行を一緒にしてもバランスシートの総額は変わりません。負債が750兆円です。どうしてでしょうか。図表2では、政府は国債を800兆円発行していて、そのうち日本銀行が500兆円を持っています。そうすると、民間が持っている国債は300兆円になり、それが負債欄に書かれています。しかし他方、緑色の準備の部分は250兆円から350兆円に増えています。そのため、現金100兆円、国債300兆円、準備350兆円の合計が750兆円になり、図表4(1)と変わらなくなります。これとちょうど鏡になるように、民間銀行の資産には準備350兆円、国債300兆円が書かれ、加えて貸し出しが950兆円あるということです。そして、これらの原資が私たちの預金1,600兆円になっています。


●準備の付利の抑制は、預金課税と実質的に同等になる


 さて、日本銀行に預けている民間銀行の預金口座、当座預金(準備)にも金利が少し付いています。現状ではおよそ0.1パーセントです。一部マイナス金利になっている部分もありますが、全体としておよそ0.1パーセントの金利が、準備にかけられています。

 準備にかけられる金利がこの程度で済んでいるのは、国債の長期金利が低いからです。しかし、国債の長期金利がどんどん上昇していって、例えば2パーセントや3パーセントになっても、準備の金利をずっと低く抑えていた場合、何が起きるでしょうか。図表4(1)でも(2)でも同じですが、その場合、国債で運用した方が金利が高いのに、準備で運用した分については金利が抑制されているので、十分金利が付かなくなります。そこで最終的に誰が損をするのでしょうか。それは民間銀行のバランスシートを見れば明らかです。

 図表4(1)と(2)のどちらでも同じですが、準備の金利が抑制されるということは、私たちの預金の一部にかけられる金利が低く抑えられてしまうということです。つまり、私たちが損をするのです。

 これが、日銀が国債を買い切っても、国民負担なしに財政再建ができない第2の理由です。準備の金利のことを「付利」といいます。もし国債の金利が正常化する中で、市場金利との比較で、準備の付利を適切な水準まで引き上げずに抑制する場合、政府部門と日本銀行を一緒に見れば、実はそれは私たちの預金の金利の一部をカットしているということ、もしくは預金課税を行っているということと、実質的に同等になるのです。


●日本銀行と政府を一体で見れば、準備は国債と同じだ


 反対に、準備の金利を適切な水準まで引き上げれば、どうでしょうか。見かけ上は、準備という名称になっていますが、日本銀行と政府を一体で見れば、これは国債と同じです。したがって、準備の金利を適切な水準に上げれば、その分のコストが顕在化してしまうでしょう。このように、日本銀行が国債を買うからといって、日本銀行を子会社と見たとしても、結局、日本銀行と政府のコストは抑制できません。もし抑制するとすれば、それは誰かが負担をしなければならなくなります。そして、場合によっては、私たち預金者がその負担をすることになるでしょう。

 以上、金融、特に日本銀行が政府の国債を買った場合に財政に与える影響について、2回にわたって説明しました。
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