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AIが不得意なのは「常識に支えられた高度な判断力」

AIとデジタル時代の経営論(6)暗黙知と判断力

一條和生
一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授
情報・テキスト
一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授の一條和生氏によれば、AIが不得手なのは、暗黙知・常識に基づく高度な判断である。人間の役割はこうした暗黙知を捨てず、個々の状況での判断力を磨いていくことだ。暗黙知を支える思い・信念を、企業の中でも、今以上に評価するようにしていく必要があるだろう。(2017年7月24日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「AIとデジタル時代のリーダーシップ」より、全9話中第6話)
時間:11:09
収録日:2017/07/24
追加日:2017/10/30
タグ:
≪全文≫

●AIが不得意なのは、常識に支えられた高度な判断力だ


 AIの利活用にあたって、AIには何ができないかということも、考えておく必要があります。AIには、私たちが長年経験を積んで得てきた、いわゆる高度な暗黙知としての常識がありません。常識というのは、私たちの身体に植え付けられた高度な暗黙知なのです。

 例えば、AIが不得意とするのは、高度な判断力です。高度な判断力は、高度な常識に支えられているものです。それが如実に明らかになったのは、2016年に起きた、マイクロソフトのAI「Tay」の暴走です。Tayが突然、ヒトラーを肯定するなど、言ってはならないことを言い出したのです。

 悪意を持った人が、Tayにディープラーニングをさせたのです。その結果、「Hitler was right. I hate the Jews(ヒトラーは正しい。私はユダヤ人が嫌いだ)」というようなことを言い始めました。これは普通の人間であれば、言ってはいけないことだと分かります。ちなみに、「I fucking hate feminists and they should all die and burn in hell(私はフェミニストが大嫌いだ。あいつらは全員地獄に落ちろ)」という、ドナルド・トランプ大統領が言いそうなことさえ、言ってしまうのです。


●知識のフローの中に入り、新しい知識を創れ


 こうした中で今、世界的に注目が集まっているのは、知識、とりわけ暗黙知です。ケロッグ経営大学院の学長であるサリー・ブラント氏は、非常にリーダーシップの高い女性ですが、彼女が変革の時代に向けて重要なことを提言しています。世界中の学長が集まるカンファレンスで述べたことですが、「Create / disseminate knowledge(知識の創造と知識の伝播)」が大事だというのです。

 同じ時に、ジョン・シーリー・ブラウン氏の提言もありました。彼はPARC(Palo Alto Research Center)という、ゼロックスのつくった伝説的な研究所の所長を務めました。グラックユーザーインターフェースや、マウスを使った入力など、今のコンピューターの基本的なテクノロジーをつくったのは、PARCです。ただ、当時のゼロックスの経営者は、こうしたテクノロジーはコピー機には関係ないと言って、商品化を捨て去ってしまいました。PARCをのぞきに行ったスティーブ・ジョブズ氏が、そのアイデアを盗んでいったという逸話もあります。ブラウン氏は今、Amazonの社外取締役に就任しています。

 ブラウン氏が強調したのは、現代は劇的に変化の速い時代だということです。今までは知識を貯めて守ってきましたが、これからは知識のフローの中に入る必要があります。そして、新しい知識をつくらなければいけません。ブラウン氏によれば、しかもその多くは暗黙知です。


●日本企業は世界に先立って、暗黙知の重要性を示してきた


 このように、今はデジタルの時代だ、AIの時代だと叫ばれる一方で、人間に得意なこととして、暗黙知に関心が集まっているのです。これは非常に注目すべき現象です。

 暗黙知については、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が体系化した、知識創造理論が有用です。私たち一橋大学に関わる人間は、この理論をさらに発展させることをミッションにしています。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏であれば、経営戦略をストーリーとして捉えます。つまり、思いを語るということです。それは暗黙知の形式知化を意味します。暗黙知は、言葉になっていない知識であり、形式知は、言葉になっている知識です。

 例えば、楽譜は形式知です。しかし、この楽譜通りに弾いても、名演奏になるとは限りません。その背景には、大変豊かな暗黙知がなければなりません。その暗黙知をつかんだときに、素晴らしいパフォーマンスになるのです。つまり、鍵は暗黙知をつかむかどうかにかかっています。

 こうした暗黙知の重要性を、非常に深く理解しているのは、日本企業です。日本企業が気を付けなければいけないのは、デジタルやAIの時代であるけれども、決して形式知化に走らず、暗黙知が大事だということを忘れないということです。日本企業は世界に先立って、暗黙知の重要性を示してきたのですから。


●知識において最も大事なものは、信念である


 知識の定義は、「justified true belief(正当化された真なる信念)」です。つまり、知識は思いから来るのです。それゆえ、企業にとって知識というのは、組織活動の中で、人々のチームワークから生み出されるものであり、それは色々な形を取り得ます。新しい技術かもしれないし、新しいビジネスモデルかもしれないし、新しい生産オペレーションかもしれません。いずれにせよ、企業においては、人々のコラボレーションが生み出したものが知識です。そして、知識において最も大事なものは、先ほどの定義にあった、belief、つまり信念に他なりません。強い思いというこ...
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