●他国の核、ミサイル開発には警告を送るイスラエル
皆さん、こんにちは。
前回は北東アジアと中東の核と安全保障の問題について、お話ししましたが、引き続きこの問題について考察してみたいと思います。
中東における核の保有と核の開発は、イスラエルとイランに象徴されるわけですが、今のところは国家理性によって禁欲的に管理されています。したがって、北朝鮮のような他国に対する公然たる「核恫喝」は存在していないということに、前回触れたわけです。
しかしながら、イスラエルの特徴は、自国の核保有について、持っているとも持っていないとも言わない、つまり何もコメントしないところです。要するにノーコメントを貫いているのですが、そうはいっても他の国、特にアラブ諸国、あるいはイランが、自国の安全保障を損ないかねない核や中長距離ミサイルの開発を進めることについて寛容ではなく、しばしばそのことを許さないといった態度を取り、そのため、空爆や破壊工作で警告してきたことも事実なのです。
●脅威はつぼみのうちに排除-イスラエルのハマー攻撃
2017年9月7日に、イスラエル空軍はシリアのハマー郊外のミサイル製造工場を攻撃しました。これはかつて、イスラエルがシリアやイラクにおいて、核開発につながる核濃縮施設を攻撃した高度な戦略性を思わせるものがありました。今回の場合、特にイランが援助する兵器の製造を、シリアには許さないという強いシグナルを送ったということです。
元イスラエル国防軍の諜報局長官であったアモス・ヤドリン氏によると、「予防は治療に勝る。脅威はつぼみのうちにつみ取る。これが長期的には望ましい」という発言でした。まさに、孔子ではありませんが「春秋の筆法」をもってするならば、アメリカや日本はこの真理に鈍感であったために、今、北朝鮮の核恫喝に悩む結果になったといえるかもしれません。
●核保有国と開発実験国では、戦略の組み方が異なる
しかしながらイスラエルも、アメリカや日本のことを高みで見ているだけにはいかないのです。イスラエルは現実に地域大国イランを相手にすると、かつてのシリアやイラクといったレベルの国とは違い、戦略的脅威があるからといってそれを除くために軍事攻撃をする、という選択には踏み切れなかったからです。
アメリカや日本が北朝鮮に圧力をかけ、国連安保理、あるいは独自の判断で、圧力の極限まで各種の制裁を実行しているのは、イスラエルがイランに対する態度においてすこぶる慎重であった理由とよく似ています。つまり、現実に核兵器を保有する北朝鮮に対する対応と、核濃縮の実験レベルにあるシリアやイラクに対する具体的な反発、軍事行動という点では、戦略の組み方がまったく異質なものになるのは当然だからです。
●ロシアがイスラエルのハマー攻撃に沈黙した理由
さて、ここで先ほどハマーに対する9月7日の警告を含めた攻撃について触れましたが、その際、不思議であったのは、シリアに防空システムを張り巡らせているロシアの反応でした。
ロシアはなにゆえに、防空地域内のハマーの郊外に対するイスラエル軍の攻撃に沈黙を保ったのでしょうか。地中海に面したタルトゥス(シリア)の軍港には、イスラエル、トルコ、イラク、ヨルダン、キプロスを400キロメートルの射程でとらえるロシアのS-400ミサイル防空システムが設置されています。また、ロシアはイスラエルの沖合にウラジオストークを母港とする太平洋艦隊の旗艦ワリャーグ号をはじめとして軍艦を設置し、また時として地中海、黒海以外の海域からも海軍力を繰り出して、シリア情勢をウォッチしています。このワリャーグ号などの軍艦には150 キロメートルの射程を誇るS-300Fという海上艦戦用のミサイル防衛システムが艦載されています。
こうした観点からすると、ロシアは自らの防空システムをイスラエルに侵されたわけですから、当然反撃するのが純理論的にはあり得る答えになるのですが、ロシアはそうしませんでした。これに対しては、ロシアがイスラエルのシリア攻撃、爆撃がイランに対する警告であってロシアへの攻撃ではないということを事前に知らされていたか、あるいはイスラエルとの間で了解ができていたという解釈が一つあります。もう一つの解釈として、イスラエル空軍の能力や性能がロシアのS-400防空システムを上回るほどの高度な力を持っていた、という可能性もまったく排除はできません。
いずれにしても、襟裳岬の沖への北朝鮮のミサイルの着弾に対する日本の冷静な反応(この場合の「日本」は日本の防衛省、自衛隊、ひいては政府のこと)と比較しても、ロシアは沈黙していたわけですから、冷静な反応以上に沈黙という態度は際立っています。
2017年8月以前において、イスラエルはシリアでほとんど目...