●世界でも突出している日銀のマネー供給量
(前回までの解説を踏まえて)こういった中、黒田日銀の下での金融政策が、円相場にどういう影響を及ぼしてきたか。これが本日の3点目のポイントになります。今、ご覧いただいているグラフは、アメリカ、ユーロ圏、日本のマネタリーベース、要は中央銀行が供給しているマネーの量をドル建てで見たものです。今、日銀が供給しているマネーの量はちょうど4兆ドルを超え(日本円でいうと400兆円以上)、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)を上回ってきたことがお分かりいただけると思います。
アメリカのFRBは、実はちょうどこのタイミングで資産を圧縮していくという方向性を示していて、一方でこの1~2年急激にバランスシートが拡張してきたユーロ圏のECB(欧州中央銀行)も、資産買い入れをスローダウンさせる方向性を示し始めています。その意味においては日銀の資産買い入れ、バランスシートの拡大が、世界の中央銀行の中でも突出する状況になっているのではないかと考えています。
●日銀金融政策の円相場に及ぼす影響を5変数でモデル分析
この日銀の政策が円相場に及ぼした影響を捉えるのは非常に難しいのですが、私が定期的にアップデートしているモデルを用いて考えを述べてみたいと思います。
今、見ていただいているスライドの左上のグラフは、ドル円相場とこのモデルに基づく推計値を示していて、赤い線が実際のドル円相場、青い線がモデル推計値ということになります。今、モデル推計値が大体107円くらいですから、113円台のドル円はまだ少し過大評価かなといったところが少しあります。
このモデルはどういった説明変数を持っているのかというと、スライドの下部にある一覧表の(1)から(5)の5変数モデルをご覧ください。このモデルは一応、決定係数が0.8を超えており、t値とかp値といった統計的な信頼度を示す値も比較的高いものです。実はこの5つの変数を残すために大体300回ほど回帰分析を行っていて、その上で理論的あるいは統計的に考えてもおかしくないという5変数を残したというのが、このモデルです。
まず1つ目は日米政策金利差、すなわちFRBと日銀の政策金利差です。2つ目は日米の長期金利差で、これは10年国債利回りの格差をインフレで調整した実質長期金利差にしてあります。3つ目は日米のマネタリーベース倍率、つまりFRBと日銀のバランスシートを対比させたもので、量的緩和の反映ということになってきます。4つ目は日本の基礎収支で、経常収支プラス直接投資を経験則的に1年先行させて示しているものです。5つ目は日本の交易条件で、輸出物価を輸入物価で割ったものになります。
実はこの中で非常に大きな影響力を持っているのが、国際収支である4つ目の日本の基礎収支なのですが、基本的には1つ目から3つ目の3つの要因が金融政策の影響を受けやすいということで、今回はこちらの方にフォーカスした話を進めていきます。
●日米政策金利差、長期金利差が相場に及ぼす影響
まず、日米政策金利差の係数を見ていただくと2.56と入っています。これは1パーセントの金利差変化がドル円のフェアバリューに与える影響が2.56円だということが示されています。すなわち、0.1パーセントの金利変化では0.256円、つまり25銭ほどしか影響が出ないことが示されているのです。2点目の長期金利差も係数が1.07と出ていますので、1パーセントの金利差の変化で1.07円、0.1パーセントの変化だと0.107円、10銭ほどの影響だということが示されています。
実際のドル円相場は金利差に対して過敏に反応する傾向があるのですが、中長期的なフェアバリューに与える影響という意味では、1パーセントのイールドカーブの変化がドル円に与える影響は4円ほど、0.1パーセントだと40銭以下だということが示されているのです。
●量的緩和が相場に与えた影響の大きさ
一方で、3つ目の日米マネタリーベース倍率が量的緩和の反映ということになってきますが、これはGDP比に引き直しているため非常に分かりにくいのです。ただ、今、日銀が行っている量的緩和は、大体年間50~60兆円ほどになっています。目標は80兆円なのですが、実際には50~60兆円ほどに減ってきている状況です。この50~60兆円の日銀による資産買い入れが年間で大体3円くらいの円安効果を持っているということがこのモデル上、示されていることです。他方、今回FRBは月々100億ドルの資産減額を行うことを発表しているため、この100億ドルの資産減額が1年間続くと、大体1円ほどのドル高効果となります。FRBはこれを1年後に500億ドルに引き上げることを方針として示しています。そうすると、1年間で大体5円ほどのドル高効果が出てくるという計算になります。
日銀が3円、FRBが5円ということになりますから、この量...