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保険料率の引き上げは限界に達している

高齢化と財政危機~その解決策とは(12)保険料率の引き上げと給付削減

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長の島田晴雄氏が、歳出削減の本丸である年金改革について解説する。保険料率の引き上げは有効な手段だが、すでに限界に達している。他方、給付額の削減はなお有効だ。マクロ経済スライドをデフレ下でも実施できるよう、改革する必要がある。(全24話中第12話)
時間:08:28
収録日:2017/10/05
追加日:2017/11/26
≪全文≫

●保険料率の引き上げは限界に達している


 歳出削減の最大の柱は、社会保障をどこまで改革できるかにかかっています。額がものすごく大きいですから。社会保障制度の改革について主な意見を拾いながら、考え方を整理していきたいと思います。ただし、社会保障は額を減らせばいいという問題ではありません。社会保障はやはり、一般国民あるいは勤労者の生活にもろに関わっています。したがって、質的な改革が必要になります。

 最大の問題は年金改革です。第1の要点は、保険料の引き上げです。保険料率の引き上げは、財政赤字累積のほとんどが社会保障給付の増大によるようになった1990年代以降、財政赤字増大を抑制する手段として、大変有力な選択肢と見なされてきました。実際、政府は保険料率を引き上げ続けてきました。しかし、政府は国民に対して、2004年の改正で、2017年度までに18.3パーセントへと引き上げれば、それ以上は引き上げないという約束をしました。

 18.3パーセント以上に引き上げるなら、2004年の公約を破ることになります。国民は公約のために存在しているわけではないですから、国民のためになることであれば、公約はいくら破ってもいいと私は思います。しかし、実際には、これ以上に引き上げると、現役世代の負担をさらに高めてしまうことになるのです。

 つまり、保険料率の引き上げによって勤労意欲が減退すれば、現役世代、将来世代の負担が増えるのです。今給付を受けている受給世代の負担は高まることはないのですから、世代間格差が非常に拡大していくでしょう。したがって、保険料率の引き上げは限界に達していると思います。


●マクロ経済スライドは、一度も適用されていない


 年金改革の論点として、第2に給付の削減があります。2004年の大改革で、「マクロ経済スライド」という制度が導入されました。経済が成長しようがしまいが、毎年、年金給付額を0.9パーセントずつ引き下げていくという制度です。これは法律で通っています。その根拠は、公的年金の被保険者の減少です。長期推計によれば、人口が毎年0.6パーセント減っていくのに対して、平均寿命の伸び率は、平均0.3パーセント増えていくということです。これに合わせて0.9パーセントずつ給付を減らしていけば、マクロ経済変動とは別に、構造変化に対する対応ができるというわけです。

 この制度を適用していけば、22、3年もたつと給付総額が約20パーセント切り下げられます。これはすごく大きいことです。ところが、2004年に導入されたマクロ経済スライドは、何と2017年10月現在に至るまで、一度も適用されていません。なぜかというと、この制度はインフレ時に適用されることになっていたからです。マクロ経済スライドを適用することによって、年金の名目額が減少してしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめる、という規定が法律の条文に書かれていました。

 受け取る年金の名目額が減らないようにすることが目的でした。やはり国民は、手取りが減るかどうかということにものすごく敏感です。デフレのときは、そうでなくても支給額が減りますから、手取りも減ります。そのため、デフレの際にはマクロ経済スライドが適用されないようにしたのです。しかし、2005年から日本はずっとデフレです。そのため、この制度は運用されずにきました。

 私の考えでは、マクロ経済スライドは本来、構造変化に対応する制度です。インフレデフレかは関係ありません。申し訳ないですが、手取りが減っても仕方ないでしょう。国の将来のためですから。したがって、即刻この法律を改正して、インフレのときでもデフレのときでも中立的に、手取り額がどうなろうと、0.9パーセントずつ減らしていくというようにすべきです。そうすれば、20年間以上で2割削減できます。これは大変ありがたいことで、日本の財政負担問題は相当改善されるでしょう。

 もちろんこれによって、2004年改定のときに定められた所得代替率50パーセントは、保証できなくなります。所得代替率50パーセントとは、これまでに稼いできた給料の半額を年金で給付するということです。給付額を2割も減らしてしまえば、これは保証されません。所得代替率は40パーセント程度になってしまうでしょう。これは公約違反ですが、公約は国民のためにあるのであって、公約のために国民があるのではありません。必要であれば、公約を破ることも辞さない姿勢が必要です。


●長期的な給付削減は、低所得階層の再生産能力を阻害しうる


 ただし、さらに問題があります。給付の長期的削減を通じて、基礎年金の給付も当然削減していきます。基礎年金は低所得者の所得補償の役割を果たしているため、かなりの影響が出るでしょう。現在の日本社会には、1990年代以降の低成長時代を通じて、低所得階層がか...
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