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日本は高負担・高福祉の北欧型社会保障を目指すべきか?

高齢化と財政危機(15)北欧型とアメリカ型の社会保障

島田晴雄
公立大学法人首都大学東京 理事長
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長の島田晴雄氏が、社会保障のモデルとして北欧型とアメリカ型を検討し、日本のあるべき姿を解説する。日本がもし北欧型の社会保障を目指すのであれば、国民負担率を現状の倍以上にする必要がある。しかし、質の向上が伴わなければ、国民は負担の増加を決して受け入れることはないだろう。(全24話中第15話)
時間:06:58
収録日:2017/10/05
追加日:2017/12/04
≪全文≫

●北欧は自立が基本だ


 北欧は福祉国家のモデルとして重要ですが、その対極にはアメリカがあります。アメリカは民間が主体で、競争至上主義です。

 北欧は皆保険、皆医療です。サービスは全部無料ですが、国民負担がものすごく高くなっています。運用は極めて厳格で、患者の甘えは許されません。北欧は自立が基本です。サービスを提供するといっても、緊急医療でなければ1カ月も待たされるということはざらにあります。日本ではまずそういうことはありません。しかし、北欧の国民はこうしたことを理解して受け入れています。

 例えば、福祉施設では寝たきりにはさせないという鉄則があります。とにかく、患者に立って歩かせるようにします。夫婦で入院患者となっている人たちが、雪の降る中、手に手を取って歩きなさいと言われている光景を見たことがあります。厳しい世界です。

 車椅子の操作も日本とは全く異なります。ドイツや北欧の車椅子は、自分で部品を外すことができます。つまり、ベッドのそばまで自分で行って、自分で車椅子を外して、自分で寝ることができるようになっているのです。反対にいえば、介助者はいません。日本の車椅子は、部品が外せない場合が多い。その代わり、介助者が車椅子を押してくれます。介助者がいなければ、患者はベッドに横になれません。

 最近少し改良されてきましたが、日本の車椅子には非常に大きな問題があります。お尻と接しているところに、座布団のようなものがあるのですが、座り続けていると、褥瘡(じょくそう)ができてしまうところです。お尻の皮と肉がものすごく弱い高齢者は、痛くてたまらないのです。だからずっとベッドに寝ていて、車椅子に移るとなると、拒絶反応を示します。いずれにせよ日本は、JIS規格や工業規格製品といった安全基準で車椅子を作っていますから、とにかくあらゆるところが不徹底です。


●アメリカでは4,000万人以上の無保険者がいる


 アメリカ型の社会保障は、基本的に個人負担です。そのため、大企業の従業員と低賃金層では社会保険にも大きな格差があります。大企業は非常に高額な保険を購入し、非常に高質な医療サービスを受けます。しかも、大企業の役員たちは、まず病気になりません。好循環が生まれています。一方、超零細企業や低賃金層はその逆です。病気になりがちだし、医療費もかかります。アメリカは、保険料を多くは払えない人には保険を提供しないという国ですから、結局4,000万人以上の無保険者がいるわけです。

 例えば、台風が来てミシシッピ川が氾濫すれば、最低開発国のような状況になってしまいます。テレビで見たことがある人もたくさんいると思いますが、そんな国です。バラク・オバマ前大統領やヒラリー・クリントン氏は、国民皆保険にしようとオバマケアを推進したのですが、ドナルド・トランプ大統領がそれを白紙に戻そうとしています。日本では何十年も前に達成されたものが、アメリカではいまだに達成されていません。トランプ大統領は、またアメリカを気の毒な国にしかねません。


●日本の福祉は中負担・中福祉、自助の精神が非常に弱い


 日本は、北欧型かアメリカ型、一体どちらの国を目指すべきなのでしょうか。この点をはっきりさせておく必要があるでしょう。福祉には、自助・共助・公助という三原則があります。日本は公助を重視します。国民はものすごく政府に甘えています。また、共助も重視されています。仲間や機関に共助を求めます。

 アメリカは自助が中心です。自らを救えない人は、ほったらかしになっています。強者優先の社会であり、強い者はどこにでも強く、所得も莫大で、病気にもなりません。他方、恵まれない人は本当にかわいそうな状況になるということです。こうした考え方は、日本にはなじみません。

 しかし、北欧型をそのまま日本に適用できるかというと、簡単ではないでしょう。北欧は高福祉・高負担です。公助は完備され、共助もそれをしっかり補完しています。しかし何よりも自助重視です。他方、日本は中負担・中福祉です。医療福祉の内容は中途半端で、自助の精神も強くありません。


●財源の制約の中で、最大限の質の向上を目指すことは可能か


 福祉の真価は、高いサービスの質によって、どれだけ安心を提供できるかということにかかっています。医療は福祉の基本中の基本ですから、日本でこれが可能かは重要な問題です。質の向上のためには、医療資源を増やさなければいけません。しかし、それは当然コストがかかります。現状でいえば、日本の負担はさほど高くありません。日本は重税だと思われるかもしれませんが、国民負担率や企業の負担率で見てみると、先進国の中で最低です。

 日本の国民負担率は高いといってもおよそ42パーセント(2017年度)です。それに対して欧州(2014年)...
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