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現代刀の年間製造本数制限とそこで生じる問題点

刀匠・松田次泰に聞く―日本文化と日本刀(1)刀の本数制限

松田次泰
刀匠
情報・テキスト
『名刀に挑む』(PHP新書)の著者である松田次泰氏は、日本刀一筋40年、現代の刀匠として名人の誉れ高い刀鍛冶である。その松田氏が、現代刀の年間製造本数制限とそのことで生じる問題点について語る。(全3話中第1話)
時間:06:46
収録日:2017/03/22
追加日:2017/12/06
カテゴリー:
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≪全文≫

●「年間24振り」制限の実態


── 一人の刀鍛冶につき、年間24本しかつくれないという制限があるとお聞きしたのですが、それはなぜでしょうか。また、そのことについて、どのようにお考えでしょうか。

 私たち刀鍛冶は皆、年間24本という本数制限があると思っていました。文部科学省から「1本の刀をつくるのに2週間ほどかけてほしい」と言われていたもので、そうすると月2本=年間24本と思っていたのです。

 今回、『名刀に挑む 日本刀を知れば日本の美がわかる』(PHP新書)という本を出すにあたり、そのことを確かめておきたくなった私は、たまたま刀を注文された参議院議員の山田宏氏を通じて、文部科学省に確認を取っていただくようお願いをしたのです。山田氏が「年間24本というのは、どういうことですか」と質問したところ、「刀鍛冶への本数制限はしていません」と返事が来たのを書面で見せてもらい、私は驚いて再度確認してもらいました。

 文部科学省の返事は「本数制限はないが、1本の刀に2週間程度の時間をかけてつくってほしいと伝えている」ということでした。そこで、山田氏は「熟練した人はどうなるのですか? ふつうで2週間なら、うまい人は10日でもいいでしょうし、1週間でも足りるのではないでしょうか?」と、聞いたそうです。

 実際に私なども、もう刀鍛冶を始めて40年ですから、1週間あれば焼き入れまで終わり、10日あれば後は研ぎ師に渡すだけという仕上げ工程まで進めることができます。それも「2週間以上かけなければいけない」ということでしたので、かなり余裕をもってやっていたのは事実です。ある程度急いでやれば5日ないし7日でできるところを、本数制限のために、かなりセーブしていたのです。

 だから、この話を聞いた時は相当びっくりしました。そこで山田氏からさらに「そういう決まりの公的な文書はあるのですか」と尋ねてもらったところ、「調べてみます」ということで、これについては明確にしてほしいと思いながら返事を待っているところです。


●海外で使われている「日本刀」の実態


 では、本数制限の有無で何が問題になるのかをお話ししましょう。私たちは基本的に国内向けに刀をつくっています。その中では、本数制限があろうとなかろうと、自分が気に入ったものをつくるには時間をかけた方がいいので、特に問題はありません。

 しかし、海外となると話は別です。私が日本刀の講義をしている東海大学の武道科の学生たちや、知人で40年以上もアメリカで剣道を教えている人たちからの話を聞くと、海外で剣道や居合を始めようとする人の中には「日本刀を持ちたい、使いたい」気持ちからという動機から始める人が多いそうです。

 では、アメリカやヨーロッパなどの外国の人たちは、どこで日本刀を手に入れているのか。もちろん外国にも古い刀はあるのでそれを買ったりもするでしょうが、そういう日本刀は高いのです。明確なことは分かりませんが、どうやら韓国・中国あたりでつくられた安い刀が相当数、出回っているらしいのです。

 以前、スウェーデン王立工科大学と東京工業大学がバイキング刀と日本刀について学術会議を開いた時に、スウェーデンに招かれて日本刀の話をしたことがあります。その時、学内イベントとして居合を披露したスウェーデン人から「私の刀を見てください」と頼まれたので見てみると、とても日本刀とは思えないような形でした。

 「これは、ひょっとして、中国製、あるいは韓国製ですか?」と聞くと、「いや、中国や韓国の居合い刀は使い物にならない。これはタイ製です」と言うのです。これには驚きましたが、外国では、日本でつくった日本刀以外のものが使われているのです。値段の関係があるからしょうがないのでしょうが、彼らに本当にいい日本刀を使ってもらいたければ、手はあると思います。

 「いい日本刀」ですが、「日本刀」と呼べるのは和鉄でつくったものだけです。外国でつくられたものは当然、鉄鉱石が原料なので別物であり、日本刀ではありません。

 せっかく日本刀にあこがれを感じてくれている海外の人たちに、ちゃんとした日本刀をできるだけ安く持ってもらいたい。そのときに「本数制限」があるとないでは、大きな違いがあります。制限さえなければ、量をつくればいい話ですし、しかも質を落とさずにいいものを安く提供することもできます。そのことを、知ってもらいたいのです。

<参考文献>
『名刀に挑む 日本刀を知れば日本の美がわかる』(松田次泰著、PHP新書)
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