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トランプ政権が外交政策で錯綜している理由

激変しつつある世界―その地政学的分析(2)トランプ外交

中西輝政
歴史学者/国際政治学者/京都大学名誉教授
情報・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏の分析によれば、外交政策でトランプ政権が錯綜するのには理由がある。政権には、孤立主義派、経済ファーストの現実主義派、そして世界で強いアメリカを求めるトランプ支持者という、3つの異なる傾向が混在しているのだ。ただし長期的には、アメリカは世界から手を引いていくだろう。(全10話中第2話)
時間:07:09
収録日:2017/05/16
追加日:2017/12/25
ジャンル:
≪全文≫

●アメリカにとって北朝鮮問題は日本問題でもある


質問 なぜアメリカは北朝鮮を問題にするのでしょうか。

中西 やはり北朝鮮に関しては、ドナルド・トランプ大統領の再選戦略と日米関係が絡んでくるでしょう。アメリカにとって、北朝鮮問題は日本問題でもあります。トランプ大統領は、日本を何とか盛り立てて、しっかりしてもらって、そしてヨーロッパ方面ではイギリスだけをぐっと引き寄せて、日本とイギリスをアメリカの両翼にしたい考えなのです。これは一種の海洋支配です。

 昔の言い方で言うと、大英帝国の時代には、こうした戦略はよくブルーウォーター戦略と呼ばれました。海だけを支配して陸には上がらない、陸の問題には関与しない、という立場です。陸というのは、この場合はユーラシア大陸です。昔の大英帝国の場合にも、ヨーロッパ大陸の問題には手を出さないという考え方がありました。

 第二次大戦前のアメリカは、ブルーウォーター戦略を採っていました。日本は反米軍国主義を掲げていましたから、パートナーにはできません。そこで中国です。他方ヨーロッパでは、イギリスをぐっと引き寄せておこうとしました。これが、アメリカの太平洋・大西洋の両洋に渡る戦略です。これによって世界で影響力を発揮し、貿易大国としても地位を保とうとしていたのです。


●トランプ政権のアメリカは収縮過程に入っている


 ただしマクロヒストリーからすれば、トランプ政権のアメリカは収縮過程に入っています。ジョージ・W・ブッシュ政権は、「世界に冠たる大米帝国だ」と言って、一極覇権主義を掲げ、力を誇示していました。ところが、イラク戦争やアフガン戦争で泥沼に入り、アメリカ外交が大転換します。さらに、リーマンショックが起きれば、大きな衰退構造がはっきりとしてきました。そこで、バラク・オバマ政権は「世界の警察官を辞める」と言ったわけですが、しかし今まで通りに世界秩序に関わって、右往左往してしまいました。

 こうした経緯があって、トランプ政権が発足しています。したがって、トランプ政権は本能的に「引く政権」です。世界から引いていくということが、反射神経の中にインプットされているのです。

 しかし、他方でトランプ政権の支持者は、「We are No.1」「USA.USA」と声を張り上げます。もちろん彼らは支離滅裂です。アメリカの雇用を取り戻せ、保護貿易にしろ、アメリカの産業を守れ、アメリカファーストだ、と言いながら、世界に対しては同時に、強いアメリカでいろと言うのですから。

 トランプ支持者は、右派的体質というか、力の外交への本能的な郷愁のある、時代遅れの人たちです。世界ナンバーワンのUSAを求め、世界にばかにされないように一発かましてやれと主張する、南部の威勢のいいトラック野郎です。彼らはこぞってトランプファンです。しかしそうは言っても、この人たちが支持基盤ですから、トランプ政権は右往左往してしまうのです。


●トランプ政権には3つの傾向が混在している


 また、政権戦略を考えている人々のことも忘れてはなりません。できる限り政権を長引かせるために、議会との関係を良くし、マスコミとももう少し折り合いをつけて、徹底的な批判を避けようとする、政略派が政権内部にいるのです。例えば、息子であるドナルド・トランプ・ジュニア氏や、娘のイヴァンカ氏の夫であるジャレッド・クシュナー氏、あるいはレックス・ティラーソン国務長官やジェームズ・マティス国防長官、マイク・ペンス副大統領がそうです。こうしたいわゆる現実主義派が、政権の一角で有力な地位を占めています。

 このように、トランプ政権にはいまだに3つの傾向が混在しています。孤立主義志向、経済オンリーの現実主義派、そしてアメリカファーストのトランプ命という支持者、そうした傾向があります。このようにアメリカは錯綜している状態です。トランプ大統領といえども、右往左往せざるを得ません。これが政権の運営を読みにくくしている原因でしょう。
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