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ソニーからものづくりの力が失われてしまった

日本企業のグローバル戦略~外資系企業との比較(1)なぜソニーは苦しんでいるのか?

大上二三雄
MICG代表取締役/立命館大学経営管理研究科 客員教授
情報・テキスト
今、ソニーが苦しんでいる。日本を代表するイノベーション企業は、なぜものづくりの力を失ってしまったのか。そこには、今の日本企業が抱える問題が凝縮していると大上二三雄氏は分析する。その問題とは一体何なのか。
時間:15:37
収録日:2014/04/11
追加日:2014/06/12
≪全文≫

●子会社が利益を稼いでいるのがソニーの現状


 かつて日本代表、ソニーという企業に、もはや輝きはありません。この問題を語るにあたって、われわれはやはり、出井伸之さんがリーダーシップをとった1995年から2005年までの10年間、ソニーがどのような状況にあったかを分析する必要があると思います。

 出井さんは、1995年に社長に就任しました。前半は、当時CEOであった大賀典雄会長との二人三脚あるいは権力の葛藤の中で過ごした期間ではなかったかと思います。後半の5年はガバナンスを確立し、自らが思うように実行できる環境が整いましたが、その中でソニーは出井さんの目指す方向にはなかなか変わっていけず、利益を生み出せない時代が続いたのではないかと思います。そして2005年、ある意味で世間から追われるような形で、ハワード・ストリンガーという後継者に次世代を託して、出井さんはソニーを去りました。

 その間、実はソニーは最高利益を出しています。1997年のことで、営業利益は5257億円にも達しました。このときの稼ぎ頭は、ゲーム機とテレビです。その後、ソニーはもう一度経営のピークを迎えています。出井さんが退陣した後の2007年、営業利益は約4753億円でした。これはソニー史上2位の金額です。このときは、ビデオカメラとデジタルカメラが稼ぎ頭でした。そして2013年度、すなわち今年の第3クォーターまでの営業利益は約1415億円です。ただし現在は、ハードウェア分野はほとんどが赤字で、利益を上げているのは金融事業と音楽事業です。すなわち、本業ではない子会社が利益を稼いでいるのが、ソニーの現状なのです。


●イノベーティブな製品を作れずに苦しむソニー


 現在のソニーが苦しんでいる理由は簡単です。本業の製造業で儲かっていないからです。もっと詳しく言えば、かつてソニーが得意としていたイノベーティブな製品、例えばiPod、iPhone、iPadなどのように世界中を席巻する製品を作ることができなかったからです。この1点に絞られると思います。

 では、ソニーはもう会社として寿命を迎えているのでしょうか。そういったイノベーションの努力をしてこなかったのでしょうか。そんなことはありません。出井さんは就任後、自分の得意分野であるマーケティングを中心にして「デジタル・ドリーム・キッズ」というスローガンを打ち出し、デジタルの時代におけるハードとメディアの融合を華々しくうたい上げました。

 そして、2000年には「CLIE(クリエ)」という商品を出しました。今のiPhoneのコンポーネントがほとんど全て含まれているといっても過言ではないPDA(携帯情報端末)です。ただ残念なことに、CLIEは最も重要なオペレーティングシステムをアメリカ製のPalmOSに頼り、機能や使い勝手も全てが中途半端で、最後まで完成度を高めることができませんでした。

 また、CLIEをベースとして、2002年にはNACS(Network Application and Content Service Sector)という組織をつくり、社内の精鋭をそこに集めました。その組織を率いたのは野副正行常務です。彼は、アメリカで映画ビジネスの問題を解決して米ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを立て直し、華々しく日本に凱旋してきた、当時のソニーの最上級のエースでした。彼が中心となって、デジタル・コンテンツ・ハードウェアを融合した製品やサービスの創出をすべくプロジェクトを立ち上げたのです。しかし、その後1、2年でプロジェクトは消えてしまい、誰も知らないような状況になってしまいました。結果的に、ソニーからはiPodもiPhoneも生まれなかったのです。


●新ガバナンス導入で、出井氏が独裁的権力を握る


 なぜそのような状態になってしまったかといえば、私は、そこにはやはりリーダーシップの問題があったと思います。出井さんは、ご本人の資質がどうだったのかはわかりませんが、とにかく社内では「技術がわからない人だ」と言われていました。ものづくりの技術を誇ってきたソニーで「技術がわからない」というのは、最大のあざけりの言葉です。その意味で、特に前半期の大賀さんとの葛藤の最中は、出井さんはそのポジションをいつ失ってもおかしくない不安定な状況にありました。

 そこで出井さんは法務部門に頼りました。すなわち、新しいコーポレートガバナンスを導入することにしたのです。建前では、大賀さんの進めてきた日本企業の従来型の支配のあり方ではなく、チームがマネジメントをする欧米型のガバナンス方式を導入していきました。執行役員制度という日本語を作ったのも、おそらくソニーでしょう。それから、委員会設置会社第1号の一つもソニーです。出井さん...
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