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日本人の平等の価値観こそ日本のセーフティーネットだ

激変しつつある世界―その地政学的分析(10)平等の価値観

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
概要・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏が、日本人の平等の価値観がいかに重要かを解説する。これは一見、江戸時代の身分制や戦時中の軍隊の仕組みとは食い違うように見えるが、それらにも平等の価値観は息づいていた。非正規雇用の導入で身分格差が生じる今、平等の価値観こそ日本のセーフティーネットなのだと認識すべきだ。(全10話中第10話)
時間:09:57
収録日:2017/05/16
追加日:2018/01/16
タグ:
≪全文≫

●格差拡大は日本にとって非常に危険なこと


質問 民主党・野田佳彦政権が行おうとした税と社会保障の一体改革は、方向性は良かったと言えるのでしょうか。

中西 そうですね。ただし2012年のあの時点から、もう5年以上がたちます。あの時点でもし着手できていればと思いますが、今のアベノミクスは結局これを避けるために出てきて、国民もそれを歓迎した面があります。しかしこの間、答えは出せないでいます。失われた5年になってしまったのです。

 財政再建にとっても明らかにそうです。失われたどころか、もっと悪くなっています。しかし2012年の時点で、あの再建策がスムーズに実行できたか、実行できていたとすればどんなことが起こっていたのか、これはなんとも言えません。その間の世界経済とも関わってくる問題ですし、自信を持って答えようがありません。

 日本人にとって格差が拡大するということは、国家として非常に危険なことです。それは海外に出ると如実に感じます。例えばロシア人は、格差に耐えられるでしょう。他方、日本人は単一民族といいますか、やはりみんな平等が何よりの倫理、モラルなのです。それを外してしまえば、何の善悪の基準もないぐらいに重要なのです。


●非正規雇用は身分格差だ


質問 アベノミクスで失業率が改善されていると言われていますが、どのように見ていらっしゃいますか。

 本当の問題は、非正規雇用だと思います。これは日本人の心をすさませている、もう一つの原因でしょう。これこそ格差、それも身分格差です。グローバリゼーションの環境の下での、あるべき日本型雇用を、もっと考慮してほしかったところです。しかし、非正規雇用は早い段階から導入されていました。雇用が増えても所得が増えないし、安定した雇用でもないとすれば、「雇用が増えた」という表現は、従来の意味とは異なってくるでしょう。

 欧米やインド、東南アジアの人々は、身分格差的なものをあまり気にしません。非正規でも、正規よりたくさん給料を渡している会社がありますが、それでもうOKなのです。ところが日本人には、そのように割り切れない何かがあるのです。

 常々不思議に思っていたことがあります。平等主義が強固な遺伝子のようになっている日本なのに、江戸時代は階層社会でした。当時の人はあの身分制をどのように感じていたのでしょうか。資料を見たり、井原西鶴を...
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