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比較制度分析の創始者・青木昌彦のコーポレーション理論

比較制度分析とは何か(3)集合認知システムとしての会社

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
『コーポレーションの進化多様性 ―集合認知・ガバナンス・制度』
(青木昌彦著、谷口和弘訳、NTT出版発行)
比較制度分析の創始者、青木昌彦教授は株式会社を集合認知システムとして捉えていた。株式会社は認知的分業を組織として行うとは、どのような意味なのか。比較制度分析におけるコーポレーションの考え方について、慶應義塾大学商学部教授の谷口和弘氏が解説する。(全5話中第3話)
時間:08:38
収録日:2017/11/02
追加日:2018/01/30
≪全文≫

●比較制度分析では、複数均衡に注目する


 比較制度分析を展開してきたスタンフォード大学ビジネススクールのジョン・ロバーツ教授は、組織デザインの文脈で「コヒーレンス(coherence)」という言葉を使っています。これはまとまりや整合性、一貫性という意味合いを持った言葉です。経営者はいろいろな選択をしなければいけませんが、その選択肢を相互にフィット(適合)させるというのが、コヒーレンスの趣旨です。いろいろな領域で生まれてくる制度や方法に、どうやってまとまりを持たせるのかを考えようというわけです。

 ロバーツ教授によると、コヒーレンスには2つの意味があります。第1に局所性、第2に全体性です。局所性とは、スライドのような山の頂上を思い浮かべてください。頂上が1つだけであれば、非常に最適な点が1つだということですから簡単です。しかし、山の頂上が複数ある場合はどうでしょうか。その頂上は、ある条件の下でのみ良いだけであって、別の高さの頂上も存在するということが起きてしまいます。

 つまり、経営学でいうコンティンジェンシー理論ではありませんが、条件によって最適な組織の在り方などが変わってくるのです。これが局所最適性という意味です。新古典派経済学では、最適な均衡は1つだと考えられてきました。しかし比較制度分析では、複数均衡に注目します。アメリカ型のガバナンスか日本型のガバナンスか、あるいは株主主権型か経営者主権型か労働者主権型かといった条件によって、均衡は変わってくるのです。

 コヒーレンスの第2の意味は全体性です。システムや組織をまとまりとして考えるなら、その一部だけを変えていても全体を変えることにはなりません。だから同時多発的に、さまざまな部分を変えていく必要が出てきます。これが全体性の言わんとすることです。非常に小さく、ちまちまと部分的に物事を変えるというよりも、大胆に大きく、全体的に物事を変えていかなければ、仕組み自体を変えることはできません。こうした含意があります。


●コーポレーションとは永続性を持った社団組織である


 企業の話をしてきましたが、青木昌彦教授は2010年に書かれた『コーポレーションの進化多様性』の中で、企業からコーポレーションへと議論を拡大させています。コーポレーションというと、株式会社を想起される場合が多いでしょう。しかし青木教授は、コーポレーションをもっと広い意味で捉えるべきだと主張しています。具体的にいえば、コーポレーションとは永続性を持った社団組織だというのです。

 例えば、株式会社も永続性を持った社団、人の集まりですが、協会や大学なども永続的な組織です。これらを包摂する大きな概念として、コーポレーションを考えることができます。会社も当然コーポレーションの中に入るわけですが、そのうちの一つにすぎません。

 青木教授の専門的な定義を引きましょう。コーポレーションとは、「合目的な集団活動に従事する複数の自然人からなる自発的・永続的な結合体で、独自のアイデンティティを持ち、ルールに基づく自己統治的な組織」です。自然人というのは、普通の人間のことです。法律的に権利義務を認められた主体を便宜的につくったものが法人ですが、それに対して私たちは自然人です。これは非常に難しい定義に見えますが、要するにコーポレーションは非常に広い概念だということを理解しておいてください。


●コーポレーションを認知システムとして捉える


 さらに重要な点は、従来コーポレーションはファイナンスの観点からアプローチされてきたのに対して、比較制度分析の場合、認知を中心にコーポレーションを捉えようとするところです。

 ここで企業と会社の違いについて見ていきましょう。企業とは経済組織です。創業者や経営者、投資家、労働者とは区別され、法的な形態を獲得できるものです。他方、経済組織としての企業は、法律によってそうした法的な形態を獲得することで、会社になります。逆に言うと、会社は、法が企業に対して法人格を付与するための手段だといえます。会社が法的な形態であるのに対して、企業は経済的な形態です。ケンブリッジ大学の法学者、サイモン・ディーキン教授も、こうした定義を採用していますが、非常に分かりやすい話ではないかと思います。

 青木教授の比較制度分析は、このように定義される会社を含めたコーポレーションを、認知システムとして捉えようとするところに特徴があります。コーポレーションは広い概念なので、ここではまた株式会社に絞って話を進めましょう。

 比較制度分析の観点からすれば、株式会社とは集合認知システムだということになります。従来、ファイナンスの観点からすれば、それは物的資産の集合だと考えられていました。株主が提供した資産の集まりとして、株式会社を捉える...
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