●人事異動があっても続くシステムをつくるべきだ
質問 事故を起こさないためには、「良い仕事」を目的にすべきだというお話でした。こうしたお話を聞いた直後は意識しているとしても、次第にその目的を忘れてしまいがちです。どのようにフォローしていけばいいでしょうか。
岡田 フォローする必要はありません。安全対策はトップマネジメントだと述べましたが、「良い仕事」を意識させるということは、基本的には、何回も何回もそれを刷り込んでいくしかありません。つまり、トップマネジメントとして、上から何度も言い続けていくことです。
一方で、事故が起きれば、その対策を個別に取ることも必要です。したがって、「良い仕事」と個別の対策とのバランスをどのように保つのかということも、会社の戦略として長期的スパンで考えていくべきです。しかし、これはトップマネジメントの問題で、中間管理職の人が考えるべき問題ではありません。それぞれの部署の課長が、違うことをバラバラにやっていけば、社内の統一は図れないからです。
ここで一番重要なのは、人事異動があっても続くシステムをつくるということです。会社には人事異動があります。課長Aのやり方が良かったと思っていても、それは課長Bが異動してくれば壊れてしまいます。つまり、1人の工夫や才能に依存しないシステムづくりが必要なのです。
同様に、トップマネジメントも、今の社長だけで成り立つものであってはなりません。むしろ、社長が変わっても存続するものでなければならないのです。つまり、その人の資質や個性に依存するマネジメントではいけません。
別の言い方をすれば、1代目の社長がやり始めたことが本当に意味を持つのは、3代目の社長になってからです。3代目になっても続けていれば、社員はそれについてくるでしょう。本当に変わらないのだと思うからです。社員からすれば、今の部長のやり方はこうだが、次の部長はどうなるか分からないとなれば、そこにはついていきません。それが面白ければ一緒にやろうと思うでしょうが、つまらなければ、「どうせ、この部長は3年ぐらいでいなくなるだろう」と思うはずです。これが当たり前です。ところが、同じやり方が3代続けば、社員も会社は本気なのだと理解します。
となると、工夫するとは何かといえば、言い続けること、やり続けることだといえます。社長も部長も3代続けて同じことをすれば、みんなもやり始めるでしょう。会社の本気が見えてくるからです。
●組織のトップが「ありがとう」と言い始めるべきだ
質問 みんなで助け合うという場合に、「ありがとう」と言える文化を定着させることが大事だということでした。そうした変化を、どのように起こしていけばいいでしょうか。
岡田 そう簡単にはうまくいきませんが、一番簡単なのは、組織のトップが「ありがとう」と言い始めることです。つまり、上の人がばかになれるかどうかなんです。
エラーに関連していえば、下の人からすれば、「あの人はエラーしなかったから課長になった、部長になった」と思っている人は多いでしょう。昇進したのは仕事ができるからだ、と。下の人が上の人をそのように見れば、神様扱いになってしまいます。しかし、ある程度の地位を得ると分かることですが、自分と下の人はそれほど大きく変わるわけではありません。このように、上の人は下の人に対して、あまり差がないと感じているのですが、下の人はそうは思いません。ちょっと上の立場の人でも、ものすごく差があるように感じてしまいます。
人間は立場が上の人に対して、心理的尺度を相対的に高く持ってしまいがちです。したがって、下の人が上の人に、例えばダブルチェックで確認を取るということでさえ、実はとてもハードルが高くなります。それゆえ、そのハードルを越えてくれた人に対しては、やはり上の人は「ありがとう」と言えないと駄目でしょう。上の人がまずは言い始めるべきです。
ただし、上司が急に「ありがとう」と言い始めれば、うさんくさくなってしまうのも事実です。例えば、今日私が勧めたから態度を変えたのだと言っても、下の人はたぶらかされたのではないかと疑ってしまいます。したがって、少しずつ動かしていくしかありません。
そしてこれもまた、上司が変わったときに初めて意味を持ちます。上司Aが「ありがとう」と言っているうちは、ずっとうさんくさいと思われます。上司Aが異動になって、代わりに来た上司Bも変わらずに「ありがとう」を言い続けたときに、初めて、下の人たちも「ありがとう」と言える雰囲気ができてくるのです。
●5年後の組織のために投資せよ
岡田 したがって、変化には時間がかかります。雰囲気は簡単に醸成できるものではないからです。しかし、皆すぐに結果を求めてしまいます。だから私...