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トランプが日本の東アジア戦略を丸のみした意味

東アジアと世界の行方(3)トランプの東アジア戦略

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
ドナルド・トランプ大統領は、2017年11月のアジア歴訪の折、日本が打ち出してきたインド太平洋戦略を丸のみしてしまった。立命館大学特別招聘教授でジェトロ・アジア経済研究所長の白石隆氏は、安全保障面で日米、欧州、インドと合意が取れたということは非常に大きな意義を持つと述べる。(全6話中第3話)
≪全文≫

●トランプ大統領は日本の地域戦略を丸のみした


質問 今後10年間のアジア情勢も変わっていくと思われますか。

白石 2017年11月初頭にドナルド・トランプ大統領は10日間もアジアを歴訪しましたが、そこには幾つか非常に面白いことがありました。アメリカの人はあまり愉快に思わないかもしれませんが、トランプ大統領は安倍晋三総理のインド太平洋戦略というアイデアを丸のみしてしまったのです。過去70年間のうち、日本が考える地域戦略を、あれほど見事にアメリカが丸のみするということは初めてでした。

 バラク・オバマ大統領のリバランス政策との最大の違いは、マルチな通商秩序の構築がすぽっと落ちて、その代わりにバイのFTAを目指しているところです。ここにはトランプ大統領のアメリカファーストの考えが入っています。ですから、日本の地域戦略を丸のみすれば、アメリカとして戦略の整合性が取れなくなってしまいます。他方、日本の戦略として見ると、日本の構想にアメリカが乗り、次いでインドやオーストラリアも乗ってくるでしょう。これはあまりメディアでは主張されていませんが、相当に重要なことです。

 裏でどのような交渉がなされたのかは分かりませんが、おそらく谷内正太郎国家安全保障局長とハーバート・マクマスター米大統領補佐官が調整したのでしょう。マクマスター氏は軍人ですから、アメリカの安全保障のプロとして、日本の地域戦略は大きな方向として間違っていないと判断したはずです。安全保障の面で、日米、さらにほぼ間違いなく欧州、インドと合意が取れたということは、非常に意味があることでした。

 さらに中国の一帯一路との関係でいえば、トランプ大統領はベトナム・ダナンでのスピーチで、クオリティー・インフラストラクチャー(質の高いインフラ)を主張しましたが、すでに安倍総理が全く同じことを主張していました。ただし、アメリカ政府がこれにお金を出すとは思えません。むしろJICA(国際協力機構)やADB(アジア開発銀行)、あるいは世界銀行のお金を使って、アメリカの企業だけでなくオーストラリアやインドの企業、そして地場の企業を巻き込み、公共財になるインフラをどのように提供していくのかを模索するでしょう。こうした構想力が試されています。


●トランプ大統領にはたがをはめないと危ない


質問 アメリカ政府は何も考えていなかったから、日本の戦略を丸のみしたのでしょうか。

白石 何も考えていなかったというより、国務省はそもそもまだ何かを考えられる状態にありません。スタッフがいませんから。ということは要するに、NSC(国家安全保障会議)と国防省が中心になって考えたのでしょう。通商については、トランプ政権に少し毛色の違う人たちが入っているため妙におかしくなっていますが、少なくとも地政学と地形学的な手の打ち方については、大統領は別にして閣僚レベルでは、日本とアメリカの間である程度の合意ができたのだと思います。

 なぜ日本のメディアがこのことの重要性を報じないのか疑問です。トランプ大統領がこけて、中国がますます強くなるという論調が主ですが、それならば日本の新聞は価値がありません。アメリカの新聞と同じではないかと感じてしまいます。

質問 マクマスター大統領補佐官は日本の提案をそのまま受け入れたようですが、それはなぜなのでしょうか。

白石 やはり、アメリカ政府の中にも危機感を持っている人たちがいるのでしょう。安倍首相がトランプ大統領とかなり親密な関係を築いてしまったので、アメリカ政府としては日本を引っ張り込んで、ある意味でトランプ大統領を枠というか、おりの中に入れてしまおうというわけです。

 アメリカ政府の中には、ロナルド・レーガン政権の頃からずっと大戦略として共有されているメインストリームの考え方があります。マクマスター大統領補佐官やジェイムズ・マティス国防長官は、これを重要視する人です。彼らはやはりトランプ大統領にはたがをはめないと危ないと感じているのでしょう。
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