●マテリアル、情報改革と日本の科学技術政策
今日はこの5項目の話をさせていただきます。まず日本の科学技術についてなのですが、あまり難しいお話はここではやめておきます。
科学技術の推進というと、やはりアトム(モノ、フィジカル)がどのように寄与するかということと、ビット(デジタル、サイバー)で表される情報が大きな役割を示す時代になってきたといえると思います。
モノと情報をつなぐということで、IoTが大きな役割をしています。情報革命に対応してマテリアル革命が起きてくれることが、今期待されるという状況だと思います。
このような二つの大きな流れの中に、環境やエネルギー、情報・通信いった領域が入ってきます。自動車を情報・通信の分野に入れても結構です。それからエレクトロニクスも非常に大きな領域です。このあたりの領域はダブってくるので入れ方が難しい。それとライフサイエンスの分野があると思います。これらを元にイノベーションということが今の日本の科学技術政策ですから、大きな方向であり、同時に宇宙・海洋開発・原子力・防災のビッグプロジェクトも進んでいます。今後大事になるのがSPring-8(兵庫県の大型放射光施設)、それからコンピューター、その先の量子コンピューター(これは大きな課題になると思います)で、こういったコアインフラがあります。
●科学技術推進三つの領域が連動していないという問題
私が言いたいのは、この三つの大事な領域があるのですが、日本でこれがほとんどバラバラに行われているのが大きな課題だということです。総合科学技術会議はイノベーションの領域しか扱わないので、日本の科学技術政策における3分の1の予算が総合科学技術会議の扱いになっています。そこが非常に日本の科学技術政策の大きな課題です。
そして、スライド内をご覧いただくと、大学、原子力のところに下線を引いていることにお気づきになったかと思います。科学技術会議政策において、日本の科学技術力が少し衰えたという指摘もあるのですが、まだ十分にその力は発揮していると思います。あえて問題をいうと、大学ランキングに示されているように、大学の活力が落ちているのではないかという点が一つ挙げられます。原因についてはいろいろな指摘があるかと思います。また、科学技術の本当の課題では、やはり大きいのが原子力です。福島に続き、もんじゅ、それから廃棄物の処理、そして高コストであるということが大きな課題です。
ということで、個人的にですが、二つの大きな課題を持って今、走っているのが日本の科学技術だということを付け加えたいと思います。
●ビッグプロジェクトとの連携が最大課題
先ほど、ビッグプロジェクトのつながりをちゃんとしてほしいという意味で課題を挙げました。ビッグプロジェクトとして宇宙からのリモートセンシング(対象を遠隔から測定する手段)でCO2を世界中で計算しているのですが、気候変動を考えるとゼロエミッション(リサイクル徹底による廃棄物量ゼロ)にしないと大変なことになるというので、ビッグプロジェクトは非常に大きな役割を果たしています。それを解決する課題として、例えば、太陽光発電や電気自動車があり、その解析にはビッグファシリティが求められます。特にSPring8や京のコンピューターといったものが非常に大きな役割を果たしています。ですから、やはりこういうことを一体で扱う科学技術政策を真面目に考える時期が、今日本に来ていると思います。
そして、こういうことをやるのに、材料(マテリアル)が非常に大きな役割を果たしているということがご理解いただけるのではないかと思います。日本の科学技術の一つの在り方と、材料の位置付けを示したつもりです。
●マテリアルの分類-注目株は複合材料
あまり材料になじみのない方もいらっしゃると思うので、ここで「材料とは何か」ということを簡単にまとめてみたいと思います。
大きく分けると、材料は鉱石からできてくる無機的な材料と、石油から合成される有機材料に分かれます。無機材料には金属と非金属があり、全体としては金属、セラミックス、半導体、高分子が重要な材料の分類になると思います。
ただ、このところ非常に重要なのが複合材料で、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素線維の強化プラスチックCFRPなど非常に多様化されています。それからセラミックマトリックスの複合材料(CMC)がエンジン開発に欠かせない未来材料として大きく浮かび上がってきております。飛行機でいうと、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プ...