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航空機の設計開発における安全性の確保

航空機事故ゼロをめざして(8)設計における安全性確保

鈴木真二
東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
情報・テキスト
航空機は安全性を確保するため、どのように設計されているのか。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の鈴木真二氏が、航空機の設計開発における安全性の確保について解説する。現在では、故障しないような設計のみならず、故障を見越した設計や、確率的な信頼性基準に基づく設計も採用されている。(全12話中第8話)
時間:09:52
収録日:2017/11/27
追加日:2018/04/06
≪全文≫

●国の当局が航空機の型式証明を発行する


 航空機のライフサイクルの要素ごとに、安全性がどのような考え方で確保されているのかをお話しします。

 まず、設計開発における安全性の確保の問題です。日本では国土交通省航空局、アメリカでは連邦航空局(FAA)といった航空機を開発する開発国の当局は、自国のメーカーが開発する機体の型式証明を発行します。

 メーカーは1つの型式をもとに、同じような飛行機をたくさんつくります。型式証明とは、そうした飛行機の型式の設計に対して、安全性および環境適合の基準を満たしていることを証明するものです。輸入した航空機を使用する場合も、その航空機が登録されている国の当局は型式証明を発行しなければなりません。同型機を代表して発行し、期限はありませんが、変更や追加の場合には当局の承認が必要になります。

 型式証明によって、安全性はどのように確保されるのでしょうか。飛行機は飛行中に壊れることがあってはなりませんので、強度試験や耐久性試験が求められます。また構造試験も必要です。想定される最大の荷重に、航空機の場合は通常1.5という安全率を掛けたものを「終局荷重」と呼びます。構造試験では、この終局荷重に3秒間耐えうることが要求されるのです。さらに、疲労強度試験やエンジン等の耐久試験も要求されます。写真はコメットの事故のときにお話しした、胴体の与圧試験の様子です。


●重要部品は10の9乗時間に1回の故障しか許容されない


 また、確率的な信頼性基準も導入されています。第2次世界大戦後に開発された電気電子部品の信頼性管理の手法が、航空機の信頼性基準として採用されるようになったのです。信頼性は確率で表現されます。ある信頼性を持つ部品を組み合わせていったときに、大きなシステム全体がどのような信頼性を持つのかということを、数学的に表現するものが信頼性基準です。

 こうした確率的な安全について、国際民間航空機関(ICAO)では次のような考え方を採っています。歴史的に非常にまれですが、重大な事故は起こり得ます。これは経験的に10の6乗時間に1回発生すると言われています。そのうち、機材のトラブルに起因するものは10分の1程度ということで、10の7乗時間に1回発生すると考えます。ただし、1つのトラブルは、100個程度の潜在的な故障の積み重ねで発生するという考え方があります。そこで、安全上重要な1つの要素については、10の9乗時間に1回の故障しか許容しないことになっています。

 10の9乗時間に1回の故障とはどの程度のものでしょうか。10の9乗時間は10億時間、約11万年以上です。それぐらいの時間稼働させた際に発生する故障の平均回数を、FIT(Failure In Time)という単位を用いて表現します。つまり、10の9乗時間に1回の故障とは、1FITと表されます。具体的には、1年は約1万時間に相当しますので、10万個の部品を1年間ずっと動かした場合に、1個の部品が初めて壊れるというのが1FITということになります。航空機の重要な部品には、これほど高い信頼性が要求されるのです。

 こうした方針を各国は自国のルールに落として運用しています。例えば、アメリカの連邦航空局(FAA)は、重要な要素の信頼性の基準を、故障の影響度に応じて定めています。非常に重要な部品には、極端に起こり得ない故障に対する信頼性として、10の9乗時間に1回以上の信頼性を要求します。しかし他方、通常よく起き得る故障に対しては、そこまでではなく、10の5乗時間に1回程度の信頼性です。両極の中間には、めったに起きないとはいえ起こり得る故障があり、それにも中間の信頼性が定められています。


●トラブル時に安全な状態へ移行する仕組みを用意しておく


 信頼性を確保するための設計方針にも、何通りかあります。1つは「安全寿命設計(Safe Life Design)」と呼ばれているものです。これは目標とする設計寿命内、つまりその飛行機の寿命の中で、致命的な故障が生じないように設計を行うものです。例えば、飛行機を使っている間に、疲労が起きても絶対に壊れないように設計するわけです。

 ただし、コメットの事故にあったように、それでも故障が起きてしまう場合があります。完全な安全寿命設計を満たした上で、それでもなお発生する事故を回避するために、さまざまな設計手法が使われています。1つはフェールセーフ設計です。これは部品の故障や操作ミスといったトラブルが起きても、安全な状態に移行する仕組みをあらかじめ用意しておくものです。また、構造部材が破壊されても、構造全体に大きな影響が及ばないようにしておくことも、一種のフェールセーフ設計です。

 スライドの右図は、部品の亀裂が進展しないようにする構造様式です。コメットの事故のあとに採用されました。こうしたものもフェールセーフ設計の一つです。...
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