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航空機の安全を保証するV&Vプロセスとは何か?

航空機事故ゼロをめざして(9)安全を保証するプロセス

鈴木真二
東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
情報・テキスト
アメリカでは、民間の専門家が航空機の安全を証明するルールを提案し、それを政府がガイドラインとして採用している。こうしたルールづくりの仕組みが日本ではまだ整備されていないと、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の鈴木真二氏は指摘する。安全を保証するためのV&Vプロセスとはどのようなものか。(全12話中第9話)
時間:07:57
収録日:2017/11/27
追加日:2018/04/07
≪全文≫

●FAAは非常に厳しいフェールセーフ設計の規則を定めている


 アメリカの連邦航空局(FAA)は、非常に重要な部品について、次のような規則を定めています。例えば、フライトコントロールという飛行機を制御するために必要な部品があります。これについては、任意の単一の故障があっても、通常通り運行ができることが要求されています。また、電気系統や油圧系統故障などの複合的な故障があっても、安全に飛べることも要求されます。

 こうした規則は「ワンフェールオペレーショナル、ツーフェールセーフ」と呼ばれる、非常に厳しいフェールセーフ設計を意味します。航空機にはそれほど重要な部品が存在するのです。


●専門家がルールをつくり、それを政府が採用する


 型式証明において、航空機の安全を証明するためのルールを定めるために、アメリカではどのような手続きが取られているのか、見てみましょう。安全の基準は連邦政府が作成しますが、その基準のベースとなる考え方は、民間の非営利団体を中心とした委員会が提案します。

 FAAには、航空規則制定諮問委員会(ARAC)という常設の委員会が設けられており、その下に、テーマごとに設置される臨時の委員会として、航空規則制定委員会(ARC)があります。ARCには製造業者やエアライン、大学、研究機関など、専門家が参加して議論を交わします。

 こうした各種委員会に技術的な資料を提供するのが、非営利民間団体です。例えば、航空無線技術委員会(Radio Technical Commission for Aeronautics、RTCA)やオートモーティブ技術者協会(Society of Automotive Engineers、SAE)があります。RTCAは無線や電子機器に関する技術を検討する民間団体で、SAEは自動車や航空機の技術者団体です。いずれにせよ、製造業者やエアライン、大学、研究機関、また政府関係者などが検討委員会をつくって、主に機械部品に対する基準づくりを議論しています。

 このように、安全性を保証するための非常に高度なルールに関しては、専門家がその経験を生かしてルールをつくり、それを政府が採用するという構図になっているのです。わが国では、まだ民間航空機産業がアメリカほど成熟していないということもあり、こうしたルールづくりの仕組みが残念ながら整備されていません。これから航空機産業が成長していくためにも、安全に関するルールを議論する仕組みを整えることが求められるでしょう。


●全体から部分への一連のプロセスを管理することが保証プロセス


 アメリカではこのように、民間団体で提案された方式が、航空機を開発するときに要求される政府のガイドラインとして発表されます。

 例えば、SAEでは「安全性評価プロセス」が開発されています。これは、機体全体の安全性にとって、各部品の要素がどのような影響を及ぼすのかを評価したものです。またSAEは、このプロセスに基いて、機体全体から要素ごとに満たすべき要求を分割し、詳細に決定するという「システム開発保証プロセス」も提案しています。さらに、具体的なハードウエアやソフトウエアの開発保証プロセスは、RTCAがまた別に定めており、これらが連携して、機体の安全開発の保証プロセスが整えられているのです。

 こうした保証のプロセスは、できた製品が安全であるということを確かめるだけではありません。個々の部品がどのような要求に基づき、どのように安全の要求が振り分けられ、そして、それがどのように確認されたかという、一連のプロセスを管理することが保証のプロセスなのです。

 こうしたプロセスはV&Vプロセス(Verification and Validation Process、設計開発検証試験)と呼ばれています。機体全体に対する要求をシステムレベルまで落とし、そして、要素ごとに試験をし、要求が満たされているかを検証するというプロセスです。


●部品の安全性を再検討する場合、解析手法の標準化が必要だ


 具体的に安全性を評価するための解析法も標準化されています。事故等が起き、さかのぼってその部品の安全性を再検討する必要が出てきた場合、解析手法が標準化されていることが必要になるからです。

 代表的な2つの手法をご紹介します。第1に、故障木解析(Fault Tree Analysis、FTA)と呼ばれるものです。大きな事故の発生要因をトップダウン式に分析して、その要因を明らかにするものです。この手法は1960年代にミニットマンミサイルの安全性解析のために、アメリカのベル研究所で開発されたものです。

 第2に故障モード影響解析(Failure Mode and Effect Analysis、FMEA)と呼ばれている手法があります。これは、要素ごとの故障の影響をボトムアップ式に統合し、システムを構築していって、全体システムの安全性を分析するものです。これは1940年代にアメリカ陸軍が開発したもので、アポロ計画でも使...
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