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航空機の事故調査と安全の組織的管理

航空機事故ゼロをめざして(11)事故調査の目的と役割

鈴木真二
東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
情報・テキスト
トランスワールド航空800便墜落事故の残骸(胴体前部)
いかに事前に対策を取ろうとも、航空機事故を完全に防ぐことはできない。事故後の調査から、今後の改善策を練る必要がある。また1980年代以降、組織的な安全管理の重要性も認識されるようになってきた。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の鈴木真二氏が事故調査と安全の組織的管理について解説する。(全12話中第11話)
時間:13:47
収録日:2017/11/27
追加日:2018/04/09
≪全文≫

●NTSBの事故調査方法は「パーティーシステム」


 ハザード分析によって運行に対する危険が低減されるのですが、事故は起こり得ます。事故後にはその原因を調査して、それを役立てるということが重要になってきます。

 ここではアメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の歴史について、簡単に見てみましょう。1956年、米国のグランドキャニオン上空で2機のプロペラ旅客機が空中衝突するという、悲惨な事故がありました。

 これを受けて1958年に連邦航空局(FAA)が設立され、1967年には、航空以外の道路、鉄道、船舶、パイプラインの事故調査を行うNTSBが設置されます。設立当時のNTSBはアメリカ運輸省の一組織でしたが、1975年には独立した組織となり、中立的な立場での事故調査が可能になりました。

 事故調査の第一の目的は再発防止です。NTSBが、FBIなどの他の機関に対して優先権を持つのは、そのためです。事故調査の方法には、事故関係当事者も参加させる、「パーティーシステム」と呼ばれる独自の方法が採用されています。これは、その機体について最も詳しい知識を有するのは当事者だ、という考えに基づいています。

 調査結果はFAAなどの政府機関に対して「勧告」という形で行われます。そのため、中立性が求められるわけです。1996年からはNTSBは事故犠牲者や遺族への対応やケアも行うようになりました。


●事故報告を受けてFAAは耐空証明を改定した


 次に、日本の航空機事故調査の体制を見てみましょう。1971年に起きた全日空機雫石衝突事故を機に、1974年に運輸省の審議会等として航空事故調査委員会が設置されました。航空事故調査委員会は、2000年の日比谷線脱線事故を機に、2001年に航空・鉄道事故調査委員会へ改称され、2008年には海難審判庁を統合して運輸安全委員会となりました。組織的にも独立行政委員会となり、権限が強化されたわけです。

 こうした事故調査の役割について、実例を用いて幾つかご紹介したいと思います。1996年、ニューヨークJFK空港を離陸したTWA800便B747型機は、大西洋上空で空中分解をするという大きな事故を起こしました。当初テロやミサイルなどが疑われましたが、2000年に発表された事故調査報告書では起こり得る原因として、中央翼の燃料タンクの圧力が過大となり破壊が始まったと結論付けています。中央翼は胴体を貫通している翼です。写真は、大西洋から引き上げられた胴体の事故調査の様子です。

 この報告を受け、FAAはFAR25-125という文書によって審査要領を改定しました。燃料タンクの爆発を防止するための分析、評価および措置を、耐空証明の条件に付け加えるという改定です。2008年11月に発行されました。この改定を受けて、日本で開発が開始されていた三菱リージョナルジェット(MRJ)も、燃料タンクに不燃ガスを充満させるなど、新しい燃料タンクシステムを設計に取り入れています。

 同様に、スイスエア111便が1998年、電気系統のショートによる火災が元で、緊急着陸の際に操縦不能に陥り、大西洋上に墜落した事故がありました。これを受けてFAAは2008年、FAR25-123によって、電気配線に故障が生じた場合でも危険な状態にならないように、電気配線等の分離、電気配線の安全性解析、耐火性等を要求する命令を出しました。この耐空証明の変更により、MRJも電気系統の設計変更を行っています。


●潜在的な事故の元となるヒヤリハットを集めることが重要だ


 こうした事故調査の中で有力な働きをするのが、「ブラックボックス」と呼ばれているものです。事故の際に、「ブラックボックスが見つかった」というニュースは非常に大きく報道されます。ブラックボックスは、飛行データを記録するフライトレコーダーと、コックピットの音声を記録するボイスレコーダーのことを指します。事故の衝撃や火災に耐えられるよう、3400Gの衝撃と1000度の熱に耐える設計が必要になります。

 ブラックボックスは、オーストラリアのデビッド・ウォーレン氏が1953年に考案したものだと言われています。ウォーレン氏は1934年に航空機事故で父親を亡くしており、コメットの墜落事故調査にも参加しました。その中でブラックボックスの構想を得たと言われています。今では事故の原因を究明するための、欠かせない道具となりました。

 こうした大きな事故だけではなく、事故の背後には「ヒヤリハット」と呼ばれているさまざまな事象が存在します。ハインリッヒの法則でよく知られているように、1つの重大事故の背景には29の軽微な事故があり、その背景には300もの異常事態があると考えられるのです。したがって、潜在的な事故のもととなる、ヒヤリハットの情報を集めることが重要だと認識されています。

 アメリカでは1976年にFAAとNASAが、危険を感じた事例や安全上の不具合を報告する懲罰免責制度を...
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