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仕事の標準・単純・専門化が労働を苦役化した

労働寿命と健康寿命の延伸(2)日本人の労働観

神代雅晴
一般財団法人日本予防医学協会理事長/産業医科大学名誉教授/学術博士
情報・テキスト
第1話では、健康長寿を保つための社会参画、とりわけそれが日本人にとっては「働く」ことの大切さにつながることを説いた。今回は、「働く」という言葉を手がかりにして、一般財団法人日本予防医学協会理事長の神代雅晴氏が、日本人の労働観を探っていく。(全6話中第2話)
時間:10:11
収録日:2018/02/22
追加日:2018/04/28
≪全文≫
 前回は、「健康長寿」を保つためには社会参画が非常に大事であること、そして日本人を対象とした場合、社会参画の一つが「働く」であると言えることを申し上げました。日本人は世界の国々の中でも独特の労働観を持っています。今回は、日本の国字の「働く」から、日本人の労働観を探ってみたいと思います。


●"Labor"と"Travail"から西洋の労働観を探る




 この図は、いろいろな国々の労働に関連する言葉を提示したものです。日本語の「労働」に匹敵する単語の中から、英語の “Labor”とフランス語の“Travail”を取り上げ、その同義語も探ってみたいと思います。ちなみに、中国が用いている漢字の「どう」は「動」の字です。お隣の韓国(朝鮮半島)においても「動」の字を使っています。

 それでは、まず英米が使っている"Labor"について少し探ってみようと思います。



 英語もしくは米語の“Labor”の同義語には、「痛み」を表す“pain”や「ストレス」に関連する“strain”のような言葉が羅列しています。日本語で表現してみると、“Labor”には「我慢する、痛む、重圧、苦しむ、悪戦苦闘する」というネガティブな言葉が隣接しているということです。



 同様に、ヨーロッパのフランスを見てみると、フランス語では“Travail”という言葉で表現されます。ここに“travail = Pain”と書きましたが、英語にするとおおむね"Pain、痛」"という言葉に匹敵します。

 この“Travail”という言葉は、「怠け者のお尻をチクチク刺して懲らしめたローマ時代の三つ又のような道具」を意味しているのです。こういう語源からTravailを用いた表現では、「馬車馬のように働く」といった意味に応用されて、使われています。

 西洋の労働観は、例えば皆さんがよくご存じのカール・マルクスの「労働は苦役である」という言葉に象徴されるように、「労働懲罰説」を採ります。宗教から捉えても、神がアダムに「おまえは額に汗してパンを得る」と言い、アダムへの労働を懲罰として科したと伝えられています。


●「働」は日本人が作った音訓両読みのある国字


 今度はわが国の「働」という言葉を見てみたいと思います。実は、私たちが漢字と呼んでいる「働」の文字は、国字なのです。日本人が作った文字というわけです。

 日本の国字は「動く」に人偏を付けています。人偏の付いた動を「はたらく」として用いたのは、日本の産業革命が始まった明治中期以降といわれています。この頃、これに「労」を付けた「労働」という熟語も作られたといわれます。

 皆さんがよくご存じの『養生訓』は、貝原益軒(福岡藩の儒学者)によって1712年に書かれています。この時の労働には人偏がついておらず、「動く」という漢字で表現されています。

 さて、国字の「働」に戻りましょう。普通、国字は訓読みだけですが、国字の中で音訓両用を持っているのが「働」の字です。「働」の音読みは「どう」、そして訓読みは「はたらく」です。訓読みの「はたらく」は、「傍(はた)」を「楽」させる、すなわち周囲の人々を楽にさせるために動き回っている。これを「働く」として使っていたわけです。


●人間としての動き=「働き」は、大脳新皮質がつかさどる


 それでは、人間が人間として動くとは、どのような動きを意味しているのでしょうか。その謎を解く鍵として、「人類が地球上に君臨できるようになった唯一の資質」は何かという問いが出てきます。この「人類が地球上に君臨できるようになった唯一の資質」は、大脳新皮質です。



 動物の脳は、われわれ哺乳類も、カエルのような両生類も、生命力をつかさどる脳幹、感情をつかさどる大脳辺縁系、そして理性をつかさどる大脳新皮質でできています。

 人間と他の動物との大きな違いは、人間のみが特別に巨大化した大脳新皮質を持っていることです。だから大脳新皮質を「人間の脳」とも呼んでいます。ちなみに、大脳辺縁系は「動物の脳」ともいわれています。

 この大脳新皮質を使って動き回ることを「はたらく」と表現しているのが、国字の「働」です。


●産業革命と大量生産が、人間の「働き」を苦役にした?


 人偏に「動」と書いて「働く」、まさに人間が大脳新皮質を使って動くことを意味しています。大脳新皮質を使うことによって、合理的かつ分析的な思考で行動できるのが人間です。

 ところが、産業革命によって徐々に変化してきた働きの様相は、20世紀の初めに大きく塗り替えられています。現代の働き方は、20世紀の初めに形作られたものです。

 20世紀の初めに人類が手に入れた生産方式とは、「大...
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