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ハドリアヌスの疑惑の残る皇帝就任

五賢帝時代~ローマ史講座Ⅷ(4)ハドリアヌスの縮小政策

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
ハドリアヌス
五賢帝時代も佳境を迎え、トラヤヌス時代にローマ帝国は最大版図を獲得する。だがそれもつかぬ間、次の皇帝ハドリアヌスは縮小に転じる。この展開はなぜ起きたのか、ハドリアヌス皇帝就任時の経緯も含め、東京大学名誉教授の本村凌二氏が論じる。(全9話中第4話)
時間:11:35
収録日:2018/02/08
追加日:2018/05/20
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≪全文≫

●ローマ帝国の版図はトラヤヌス時代に最大になった


 もう1つ、トラヤヌスが繰り返し戦争をしかける中、ローマにとって厄介だったのが、東部戦線のパルティアでした。パルティアはローマの支配が及ばない、イラン系の人々でした。

 トラヤヌスは軍人ですから、このローマにとって厄介なパルティアとの戦いをやらなければいけないというので、その準備をしていました。そして、ある時期から実際に軍事行動に起こします。今の地域でいうと、アルメニアやメソポタミアといった地域を征服することになるわけです。

 そのようにして、前回お伝えしたダキアと、アルメニア、メソポタミアといった地域を、ローマ帝国の中に編入したために、ローマ帝国の版図、その規模は最大になったといわれています。この話は、高校世界史レベルでもいわれていることですが、つまりローマ帝国の最大版図はトラヤヌスの時代でした。それぐらい巨大な帝国を、非常に優れた軍人であり優れた行政官であるトラヤヌスの時代に実現させることができたということです。

 このためトラヤヌスは、プリンケプス・オプティムス・マクシムスといいますが、いわば最善最高の君主として、後々も代表的な、あるいはローマきっての皇帝として尊敬されていくことになるのです。

 ローマはそれまで領土拡大をそれほど行わなかったにもかかわらず、トラヤヌスがダキアやパルティアとの戦争などで勝利を収めるということもあり領土を拡大し、最大規模の領土まで広げました。

 しかし、彼は高齢になっていたこともあり、パルティア遠征の途上で体調を崩して亡くなるということで、結局表舞台から消えてしまいます。


●疑惑の残るハドリアヌスの後継指名


 その後を継いだのがハドリアヌスですが、ハドリアヌスの皇帝就任に関しては、非常にあやふやなところがあります。トラヤヌスがはっきりと後継者を指名しないうちに皇帝になったからです。正式にハドリアヌスを指名していれば良かったのですが、トラヤヌスにとっては、体調を崩して死ぬのがあまりにも早かったためか、結局後継者を誰とも言いませんでした。トラヤヌスの妻であるプロティナによれば、トラヤヌスの後継者に関して耳元で遺言を聞いたところ「ハドリアヌスだ」ということで、結局その後、ハドリアヌスの時代が来ることになるのです。

 ということで、後継者としてハドリアヌスの指名...
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