●宗教心・道徳・歴史。日本が取り戻すべき三つの教育
山田宏です。今日は、なぜ日本人のガッツがなくなったのか、その原因である日本の教育についてお話ししたいと思います。
教育とは、頭つまりブレーン、それからハート、そしてもう一つ腹、この三つです。ブレーンは知識、頭、ハートは、胸、優しさや思いやりのことです。ここまでの教育は戦後してきました。ところが、腹の教育がなくなってしまったのです。英語では、腸をガッツ(guts)と言います。日本でも同様で、「腹が据わっている」ということを「ガッツがある」と言います。そういう日本人が少なくなって、日本が浮遊しているのです。
私はそれを国会議員たちにも感じてきました。先日、ヨーロッパに視察に行ったときのことです。特定秘密について各国がどういう対応しているかを調査することを目的に、自民党から共産党まで超党派で行ったのですが、そこで、自民党も含めて、著名な国会議員などにも、やはり少し幼稚さ、うぶさがあることが分かったのです。
例えば、自民党のある重鎮の議員は、「この特定秘密保護法ができたおかげで日本は秘密を守ることのできる体制になった。だからどんどん秘密をください」と言うわけです。しかし、各国とも諜報活動など多額の費用と命をかけて情報収集・分析をしているのに、日本に特定秘密保護法ができたからといって簡単に秘密情報をくれるわけがありません。もし情報をくれたとしても、彼らにとって都合のいいものだけです。
また例えば「安倍首相の靖国神社参拝をどう思うか」というようなことを質問する与野党議員が複数いました。そんなことは日本人が自分で考えるべきことで、政治家が聞く質問ではないと私は思います。こういうところになんとなく、うぶというか幼稚さというか、ガッツのなさを感じるのです。
これは政治家だけではありません。経営者も、ばれなければ偽装表示でもいいと考えるなど、とにかく自分自身を律する大義がありません。教育界でも同様です。校内暴力やいじめが陰湿化しています。しかし、そのことについて教育者や教育行政に関わる人がどう対応しているかというと、これも「ばれなければいい」という状況です。そして、うるさい親の顔を見て、うるさい子供の顔を見て、おだてて、自分が担任をしている間は問題が起きないようにする。これが今の教育界の対応なのです。また、社会はどうなっているのかと言えば、ここではまことに身勝手な親殺し、子殺し、または赤の他人を殺める事件が起こっています。その理由も、全く考えられないような身勝手な理由です。
このように日本全体が浮遊しているのはなぜか。このことにぜひ思いをいたしていく必要があると思います。
●戦後いち早く現代を予見した先人の警句
これは、一にも二にも戦後の教育に原因があると私は思っています。
戦後の教育について、京都大学名誉教授の会田雄次先生が、昭和30年代前半に、当時の京都大学の学生に対して言ったとされるお話について聞いたことがあります。昭和30年代前半に学生だった人たちですから、現在およそ60代後半から70歳です。その人たちが20歳前後の学生だった頃に、会田雄次先生は、現代を予想するようなこのようなお話をされています。
「いずれ皆さんがリーダーになる、皆さんの時代がやってくる」。京都大学だからそうでしょう。「そうなったときが、日本は最も心配である。皆さんがリーダーになったとき、おそらく日本は浮遊していくであろう」。
なぜか。それは、当時の学生が戦後の教育を受けて育っていたからです。戦後、日本は、占領軍の政策によって三つの大事な教育を捨て去りました。一つは宗教心の大切さです。二つ目は道徳です。そして三つ目は歴史への誇りです。これらの本来人間を立派にしていく三つの教育が、敗戦後、占領国によって全てなくなりました。そして、独立を果たしたあとも、ずっとそれが踏襲されています。この三つの教育をなくした人間は、必ず浮草のように浮遊するのだと、会田先生は予言されたわけです。
●宗教心は、自分の心を高めようとする意志を育む
宗教心とは、何教、何宗という特定の宗教のことではありません。宗教心とは、自分の言動を高い視点から見つめる心理のことです。昔はよく、お天道様が見ている、仏様が見ている、神様は見ている、などと言いました。そういう気持ちのことです。そのような気持ちの大切さを教育で植えつけなければなりません。これは家庭においても、また学校においても同様です。元来日本人はこれを昔話でいろいろと伝えてきたものでした。
この宗教心について、私には一つ思い出があります。私は戦後の教育で育ち、日教組(日本教職員組合)の教育を受けましたから、欧米が進んでいて...