10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

どれほど技術革新が起きても、情報工作はなくならない

インテリジェンス・ヒストリー(4)技術革新と防諜

中西輝政
歴史学者/国際政治学者/京都大学名誉教授
情報・テキスト
今や技術革新の波はインテリジェンスの世界にも及んでいる。ビッグデータや量子暗号といった最新技術を駆使した情報工作が行われているのだ。日本も基本的な情報機関を設置するだけでなく、予防対策としてカウンターインテリジェンスを真剣に考えるべきだと、歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏は主張する。(全11話中第4話)
時間:10:54
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/10
ジャンル:
≪全文≫

●インテリジェンスには技術的な大変動が起きている


質問 世界のインテリジェンスの状況について、日本人はあまり認識していないように思われます。現在の世界の状況はどうなっているでしょうか。

中西 インテリジェンスには今日、技術的な大変動が起きています。私も全貌をつかめていませんが、やはりIT技術が大々的に入ってきており、もはや「サイバー戦」などといった生ぬるい状況ではありません。世界では、一瞬のうちに何億通というメールが飛び交っています。そこにSNSというさらに新しい次元の情報空間が生まれてきているわけです。いわゆるビッグデータの世界になってくれば、国家が情報機関をつくって、インテリジェンスを解析するといったことは不可能になるかもしれません。

 また量子暗号といって、暗号を解読しようと思うと、その瞬間に基礎的なロジックが変わってしまうという暗号がすでに実用化されています。昔ながらの暗号解読をしようと思って、いくらコンピューターを使っても太刀打ちできません。


●どれほど技術革新が起きても、情報工作はなくならない


中西 とはいえ、インテリジェンスは人間の営みの根源に関わっています。どれだけ情報技術の環境が変わっても、人間という大いなる業を背負った存在や、どんな不可能でも乗り越えてサバイバルしていく国家の力といったものは変わりません。

 国家の力をまざまざと示す典型は、何といってもアメリカです。アメリカは現在、アリゾナの砂漠地帯に、3,000坪から5,000坪ぐらいの大きな倉庫を何十棟と建てています。そこにスーパーコンピューターを並べて、海外のネットワークを利用して、世界中の人々がやり取りする情報の全てを取りあえずストックするということをしています。必要とならばその情報を、キーワード検索で引っ張り出せるようなプログラムを作っているのです。

 あるいはエドワード・スノーデン氏の事件を見てもそうです。スノーデン氏の暴露によって、真偽取り混ぜながらでも、今インテリジェンスの世界で進行している状況が分かってきました。これほど技術革新が起きている世界で、そこまでして情報を盗もうとする人がいるわけです。

 世界を見てみれば、ロシアはロシアで、アメリカの大統領選挙に介入し、フェイクニュースを駆使してマスメディアにまで影響を与えました。マスメディアは民主主義国の一番の弱点です。最新の技術を駆使して、アメリカ大統領選挙に大きな影響を与えたと言われています。ドナルド・トランプ大統領が当選したのは、こうしたロシアの力が大きかったということは、今ではもう誰でも知っている話です。

 ですから、これほど技術革新が起きている時代になっても、情報工作はなくならないのだと感嘆します。国家の力はとてつもないと感じます。それに比べて日本は、恐らく2周遅れぐらいになってしまっているわけです。古典的な情報活動の分野でも大きく遅れてしまっているので、現代の問題に取り組む前に、まずしっかりとした情報の組織・機関をつくることから始めなければならないでしょう。


●カウンターインテリジェンスを対策せよ


中西 さらに日本にとって重要なのは、情報の分析です。情報を集めただけでは意味がありませんから、やはり分析能力が不可欠です。インテリジェンスとはそもそも「知性」や「頭で考える力」を意味します。何を考えるのかといえば、スパイやコンピューターが取ってきた生の情報の中に、国の政策に直結すると評価できる情報があるのかどうかということです。その情報がわが日本にとってどういう意味を持つのか、対応する必要があるのか、どんな対応策があるのか。こうしたことまで考えていく過程が一番大事でしょう。

 生の情報を山のように集めても意味はないのです。分析能力は、国の情報能力の肝です。このあたりのことをまず整備すべきでしょう。いきなり外国のメディアに手を突っ込んで、その国の政治を操るといった、ロシアや中国のような高等なことは日本にはまだできません。まずは情報の分析にしっかりと知力を付け直すことです。インテリジェンス本来の分析と評価の力です。

 さらに、最低限、外国に情報で攻められないようにするという、カウンターインテリジェンスも対策すべきです。とにかく、お隣の民主主義国家を含めて、日本以外のほぼ全ての国は恐ろしいほど盗聴が大好きです。紳士の国イギリスも盗聴の王国です。日本の中央省庁はすでに好き放題に盗聴されています。ですから、盗聴されないような対策が必要になります。

 国会では国会対策委員会が開かれて、どのように国会運営をするかなど、駆け引きの場になっています。しかし国会は外国の情報機関の端末がいっぱいあるところですから、不用意なことは話せません。あるいは、定期的にセキュリティー上の、いわゆるお...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。