●加齢であちこちが弱るフレイル、四肢が衰えるサルコペニア
虎の門病院の大内尉義です。今回は、高齢者の健康を障害する新しい病態である「フレイル」と「サルコペニア」について、3回に分けてお話をしたいと思います。
フレイルもサルコペニアも難しい言葉ですが、まずフレイルは日本語でいうと「虚弱」です。加齢とともにだんだんと体のあちこちが弱くなり、食も細くなってきて、寝たきりになってしまう状態を思い起こしていただけば、イメージが湧くかと思います。フレイルの中心的な病態は、加齢とともに四肢の筋肉が減ってきて、歩行が困難になってくることです。これをサルコペニアと呼びます。
お示ししているスライドは、日本人の寝たきりの原因をグラフにしたものです。一番多いのが脳血管障害(脳卒中)で3分の1を占めます。その次に来るのが虚弱(13.5パーセント)ということで、これが第2位の原因となりフレイルに該当します。3番目が転倒・骨折、4番目が認知症です。この四つの原因で7割ほど占めています。
寝たきりの原因を65歳から5歳刻みに見ていくと、脳卒中が寝たきりの原因になるのは、高齢者の中でも比較的若い年齢層です。75歳や80歳を越えると脳卒中はむしろ減ってきて、その代わりに増えるのが高齢による虚弱、認知症、骨折・転倒です。こういったことがフレイルの主な概念になります。
●「治る」病態としての「フレイル」を世に広める
それでは、なぜわれわれが虚弱という日本語をフレイルと呼ぶようになったかのいきさつを説明します。
高齢者は加齢とともにだんだんと足腰が弱くなり、食も細くなって、ついには寝たきりになってしまう過程が、フレイルの典型的なコースです。この状態は、日本語では「虚弱」「衰弱」あるいは「老衰」といった言葉で表現されてきました。
しかし、こういった病態は「年のせいだから仕方がない」「だれでもこういうコースをとる」ということではなく、予防もできるし、途中から運動や栄養など、さまざまな介入をすることによって、元の元気な状態に帰り得ることが分かってきました。
そういった認識がだんだん高まってくるとともに、ポジティブな面を持たない「虚弱」という言葉への疑問が出てきました。そして2014年5月、私が当時理事長をしていた日本老年医学会で、これに代わる新しい言葉を考えるための討議がなされました。
しかし、なかなかいい日本語が見つかりません。そこで、虚弱を表す英語“frailty”から最初の4文字を取り、「フレイル」と名付けることを考えました。いろいろな介入をすることによってもとの元気な状態に帰り得ることを強調するために、「虚弱からフレイル」を世の中に提言したわけです。
この言葉には、先輩の言葉が二つあります。「メタボ」と「ロコモ」です。メタボはメタボリック症候群、ロコモはロコモティブ症候群がそれぞれ正式な名称ですが、簡単な3文字言葉で表したのが世の中に非常に広まり、メタボは流行語大賞ももらいました。その流れを踏まえて、日本老年学会はフレイルという言葉を提唱することになったのです。
●フレイルの多面性と身体的フレイルの診断法
フレイルは、いわゆる健常な状態からフレイルの前駆状態、そしてフレイル状態、最後には寝たきりを含む要介護状態へという過程をたどり進行していきます。しかし、途中で適切な介入を行うことによって、もとの元気な状態に帰ることができるのです。
それから、もう一つ。フレイルは、主に身体的フレイルが問題になっていますが、フレイルの概念は非常に多面的です。社会的フレイルには独居や貧困、老老介護なども当てはまるかもしれません。精神心理的フレイルとしては、認知機能低下やうつなどが当てはまります。ということで、身体的フレイルとしては、単に歩けなくなるだけではなく、いろいろな側面があることをぜひ覚えていただきたいと思います。
2015年、国の経済財政諮問会議で、これからの高齢者対策ではフレイル対策が重要だという認識が取り上げられました。また、2016年3月に出された「ニッポン一億総活躍プラン」でも、高齢者のフレイル対策が重要であることが盛り込まれました。私たちが提言して1年から2年の間に国の公式文書に掲載されたということです。これにより、医療機関の中では非常に速いスピードで広まっていったという経緯があります。
フレイルのうちでも特に研究が進んでいる身体的フレイルの定義には五つの要素があります。意図しない体重減少(1年に4.5キログラム以上)・疲れやすい・筋力(握力)低下・歩行速度が遅...