●うまくかめない、飲み込めない「オーラル・フレイル」がフレイルと関連
それでは「フレイルとサルコペニア」の第3回目として、フレイルから生まれてきた新しい概念、「オーラル・フレイル」について、ご説明をしたいと思います。
オーラルは「口」という意味です。「口がフレイル」は、すなわち食物がうまくかめない、飲み込めない、誤嚥をするといった現象を総称して「オーラル・フレイル」と呼ぶようになってきました。
この概念を初めて提唱したのは、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授です。飯島先生は、サルコペニアやフレイルの成り立ちに、うまくものがかめない、飲み込めないということが非常に大きな影響を与えていることに着目して、「オーラル・フレイル」という言葉を提唱しました。
ものがかめないと、かめるものだけ食べるということになります。そうすると柔らかいものを好んで食べるので、かむ機能はますます落ちてきますし、食品のバラエティも減ってきます。ということで、さらにかめなくなります。したがって、そういう状況を続けると、どんどんと口のかむ機能、飲み込む機能が悪くなるという悪循環が続くことになります。これを途中で断ち切る必要があります。
●「かむ」以外に舌圧や滑舌も影響する口腔機能
口の機能、ものを飲み込む機能をもう少し細かく見ていきます。まずものを口の中に入れて、入れたものをかむ。かんだ後に舌を上あごに押し付けて、咽頭の方に食塊を押し込む。そこで咽頭の嚥下反射が起こって、ものを飲み込む。こうしたプロセスになります。
ものをかむ力、ものを飲み込むときに舌を上あごに付けて食塊を喉の方に送る力を「舌圧」といいます。それから、言葉をしゃべるときにどれだけ舌がよく動くかという舌の巧緻性(滑舌)が口腔機能の具体的な要素になっています。
かむ力、舌を上あごにつける力、舌の動き、これらの機能は全て加齢とともに直線的に低下していきます。
かむ力が落ちているときや舌圧の加減、また舌がどれぐらいうまく回って言葉が速く言えるかが、サルコペニアと非常に深い関係があることが証明されています。
●歯科医による口腔ケアと「パタカラ体操」
したがって、サルコペニア、フレイルを予防するためには、口腔機能をいかに若い人と同じように保つかということが、非常に重要になってくるのです。まず虫歯があったり、虫歯のために歯がない、入れ歯が合わないといった状態は歯科の先生にチェックしていただいて、ちゃんと歯でものがかめるようにすることが大切です。
それからかむ力を鍛える必要がありますが、そのためにはよくかむことです。中にはあまりかまないでものを喉に送り込まれる方もいると思いますが、必要なのはよくかんでかむ力を鍛えることです。
舌の動きをいかに速く保つかについては、「パタカラ体操」というものがあります。「パ、パ、パ」「タ、タ、タ」「カ、カ、カ」「ラ、ラ、ラ」という簡単な言葉をできるだけ速く言っていただきます。このパタカラ体操も有効ですので、ぜひやっていただきたいと思います。ちなみに「タ」の発音が1秒間に6回言えないと、サルコペニアの状態が2倍に増えるといったデータもあります。舌がどれだけ速く動くかもサルコペニアに非常に深い関係があるということです。
ものがちゃんとかめる、よくかんでかむ筋肉(咬筋)を鍛える、誤嚥をせず食塊をちゃんと食道に送っていく機能を鍛える、こうしたことがオーラル・フレイルには非常に重要です。それがすなわちサルコペニア・フレイルの予防にもつながります。
口の健康は健康長寿のもとだということをぜひ頭に入れて、よくものをかむ、また入れ歯は歯医者さんでちゃんとあったものにする、こうしたことを普段から心がけていただきたいと思います。