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トランプ大統領が認識する中東とは何か?

トランプ政権の中東政策(2)親イスラエルが招く混乱

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
イラン核合意からの離脱を表明した米・トランプ大統領は、1週間後の2018年5月14日に在イスラエル大使館をエルサレムに移転開設した。これによりパレスチナ各地で抗議デモが発生、イスラエル治安部隊の発砲により死者は70人以上とも言われている。この日を選んだのはアメリカの挑発行為とも取れる、というのが歴史学者の山内昌之氏。その意味するところを解説いただこう。(第2話)
≪全文≫

●「イラン核合意離脱」後のトランプ氏の動きは?


 皆さん、こんにちは。前回はアメリカのドナルド・トランプ大統領がイラン核合意から離脱したお話をしました。イランの核開発を阻止し、核保有を延期させるために結ばれた包括的な合意を、アメリカが自ら破棄した顛末についてです。

 もちろんアメリカ側から見て、イランが核開発をして核保有国になっていく状態を好ましいと思っているわけではありません。ですから、核合意脱退宣言の後もトランプ大統領は「中東に平和をもたらす」という大義名分を振りかざし、アメリカが後押しするイスラエルと一緒になって、イランへの各種の制裁や干渉を仕掛けてくることは間違いありません。

 しかし、曲者であるトランプ大統領の場合、「中東に平和をもたらす」と言いながらも、イランに対してどのような形でその担保を保証するのか。その心づもりが見えてこないのが、不安材料になります。


●イスラエルがシリアに空爆をする理由


 アメリカの動きに対してイランが反発して、新しい火種が生まれ、強まっているのが、現在の中東の状況です。ここで留意しなくてはならないのは、イスラエルの存在です。

 イスラエルは、シリアの内戦プロセスにおいてはすこぶる慎重な態度を取り、できるだけ直接的な干渉を避けてきた経緯があります。しかし、現在の不穏危機を深めていく新しい要素として、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の動きがあることについて、少し触れてみたいと思います。

 イスラエルは、これまで大小合わせて200回以上の空爆を、シリアのヒズボラに対して行ってきました。ヒズボラはもともとレバノンで結成されたシーア派イスラム主義組織で、イスラムのジハードにつながる武装組織です。

 よく考えてみると、シリアのような独立した主権の国民国家の中に、平然として隣国レバノンの武装革命組織ヒズボラが存在し、あろうことかシリア内戦にまで関与しているのは、おかしな話です。

 しかし、おかしいといえば、イランの革命防衛隊、とりわけその中核を担うクドゥス軍団(クドゥスはエルサレムの意味)がシリアに入り込んでいることも解せません。また、ロシアのように海軍と空軍を中核とする正規軍の勢力が、公然とシリアのアサド政府軍を援助し、むしろその主体となってシリアで戦っている現状もあります。それらから見ると、少なくとも当人たちは、あまりおかしいことではないと思っていることでしょう。

 ともあれ、シリアにおける彼らの存在は、イスラエルにとっては「自分たちが直接イランの隣国になっている」という危機意識を高めるものなのです。


●イラン対イスラエルの直接対決リスク!?


 したがって、特に2018年5月以降、イスラエルによるシリアへの攻撃は、ますます深まるに至っています。

 空爆の対象は、シリアのアサド政権の兵器庫やミサイルやロケット弾の製造工場であり、いわゆる実験場です。こうした製造工場や実験場はほとんどがイランのつくったものですから、イスラエルの攻撃はアサド政府軍への牽制、イランの動きへの牽制として行われているのが現状となります。そのようにいわれても仕方がないのは、一方でイスラエルはロシアのつくった基地や関連施設には一切攻撃の手を伸ばしていない現状があるためです。

 イスラエルと直接国境を接していないイランが、シリアにおける(反政府勢力の)存在によって、イスラエルにとってはまさに隣の国になった、つまりすぐそこにある敵国になったという認識をイスラエルが持ったということです。

 このことは、現局面におけるシリア情勢の、日本ではあまり触れない重要な局面かと思います。つまり、イスラエルとイランとの関係が、アサドやヒズボラなどの中間的な要素(ファクター)を隔てた対峙から、直接的なイラン革命防衛隊対イスラエル国防軍という構図が、形の上では成立したということです。


●火に油を注いだ「エルサレム移転」宣言


 イスラエルとイランの関係性について、アメリカが取った行動は、大変危険なものがあります。ご案内のように、トランプ大統領がイラン核合意脱退後1週間の2018年5月14日に、在イスラエル・アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移すと宣言したことです。

 この5月14日はなかなか重要な日で、イスラエルの建国70週年に当たる記念日でした。そういう日をわざわざ選んで挑戦的に式典を行ったのは、まことに遺憾なことです。

 案の定、この点でイスラエルと対立するパレスチナが強硬に抗議し、パレスチナ人に多くの死者を出すという混乱が生じています。今のところ、70人以上の市民たちが死んだという報告です。

 これに対して、ネタニヤフ首相をはじめイスラエル当局は、これはもともとガザにいるハマスというテロリストたちが起こした騒動...
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