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無印良品の原点となったブランドの「構想」

ブランド戦略論を考える(4)3つの事例とブランドの構想

田中洋
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
情報・テキスト
ブランド戦略の根幹には、ブランドの構想が深く関わっている。中央大学大学院戦略経営研究科教授の田中洋氏が、レッドブル、住友不動産の新築そっくりさん、そして無印良品を取り上げ、どのように原点となるブランドの構想が生み出されたのかを解説する。(2018年1月27日開催中央大学ビジネススクール/ビジネス戦略論最終日講義「『ブランド戦略論』をどう読むか」より、全7話中第4話)
時間:08:08
収録日:2018/01/27
追加日:2018/08/01
タグ:
≪全文≫

●レッドブルの構想はリポビタンDがきっかけとなった


 ブランドの構想について、別の例を挙げましょう。レッドブルというエナジードリンクがあります。これはもともと、オーストリア人のディートリッヒ・マテシッツ氏が考案したものです。

 彼は1980年代、ユニリーバの仕事でアジアを旅行していました。タイを訪れた時、ちょうど日本の高額所得者リストがニュースで流れているのを目にします。まだ日本の税務当局が、高額所得者のリストを堂々と発表していた時代です。第1位になっていたのが、大正製薬の当時の会長、上原正吉氏でした。

 これを見たマテシッツ氏は非常に驚きます。なぜ、製薬会社の会長が日本の高額所得の第1位なのでしょうか。当時の日本は、車や電器で有名でしたから、驚くのも当然かもしれません。彼は大正製薬について調べ始め、リポビタンDを作っている会社だということを知ります。そしてさらに、リポビタンDをはじめとする栄養ドリンクが、アジア各地で非常に人気があるということを発見していくわけです。

 これがエナジードリンクという新しいカテゴリーをつくるきっかけとなりました。このようにレッドブルは、ある種の出来事がきっかけとなってブランドの構想を得た例になります。


●新築そっくりさんは大震災の風景を見て構想された


 さらに、住友不動産の「新築そっくりさん」というブランドがあります。これは全面リフォームのブランドです。住友不動産は、不動産会社の中で日本では三菱、三井に次ぐ第3位ですが、事業の構造として非常に特異なのが、こうしたリフォーム事業でかなり稼ぎだしているという点です。

 そもそも住友不動産がリフォーム事業を始めたきっかけは、1995年の阪神淡路大震災でした。大震災で亡くなられた方の約7割が、建物による圧死でした。建物の下敷きになってなくなった方が非常に多かったのです。当時、高島準司社長がこうした大震災の風景を見て、思い付きます。家が古くなっても倒れることがないよう、そのまま安全にリフォームができる仕組みをつくればいいのだ、と。こうして、新築そっくりさんという全面リフォームの事業を立ち上げるに至ったのです。

 ただ、全面リフォームの事業はそれほど簡単ではありません。大工さんは、あまりリフォームをやりたがらないようなのです。部分リフォームは比較的簡単なのですが、全面リフォームのように、建物の構造を残して、その他は全て造り直す仕事は難しいのです。

 家が古くなればなるほど、もとの図面は残っていません。全て壊してしまうならたやすいのですが、壊さずに構造だけ残すとなると、例えば見積もりは難しくなります。見積もりのために部分的に壊してみると、中がシロアリに食われていたということもよくあるようです。

 全面リフォームには、このように事前に正確な見積もりを可能にし、さらにリフォームの技術を持った大工さんが必要になります。そのため、住友不動産は自前でリフォーム専門の棟梁を養い、全国的な組織をつくりました。こうして、リフォーム事業が担えるような基礎を同時につくっていったのです。


●無駄な性能をそぎ落とし、コストを安くして発売する


 最後に取り上げるのは、無印良品です。無印良品は、もともと亡くなった堤清二氏が発想した事業でした。1970年代、堤氏らは当時、世界で一番の流通の会社であったシアーズ・ローバックを訪問するため、シカゴに向かいました。

 彼らが目撃したのは、シアーズ社が日本から輸入した日本製のカメラを、いったん解体して発送しているという光景でした。しかも解体の過程で、日本製カメラの高性能な部分をダウングレードしていたのです。つまり、シアーズ社は日本製カメラの性能を落として売っていたのです。

 堤氏は非常に不思議に思いました。なぜ、わざわざこんなことをしていたのでしょうか。具体的にいえば、当時の日本製カメラのシャッタースピードをシアーズ社はダウングレードしていたのです。シアーズ社の説明では、アメリカの消費者には、これほど速いシャッタースピードは必要がないということでした。

 堤氏はここから発想を得ます。つまり、無駄だと思われる性能をそぎ落とし、その代わりにコストを安くして発売するという発想です。今もそうかも知れませんが、当時の主流は、高性能の商品の方が良いという考え方でした。しかし堤氏は、わざと商品を低性能にして販売した方が良い場合もあるということに気付いたのです。

 これが無印良品の一つのコンセプトの柱となりました。無駄な機能を省いて、シンプルな性能にし、納得できる価格で商品を売るという発想です。次第に他の発想も無印良品には付け加わっていくわけですが、最も基本的な発想を堤氏はシアーズ・ローバックの訪問によって得たのです。
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